「……喉…が、渇いた……」
「……えぇ、それで?」

 私はわざと意味のわからない振りをして笑顔で答える。

「…喉が…渇いて……、身体も渇いて……欲しくて欲しくて我慢が出来ない」
「何が欲しいのですか」
「…………精」
「それじゃわかりません。何をどうして欲しいのか、ハッキリと仰いなさい」

 アルクェイドはのっそりと私を見上げた。口は開き呼吸は乱れ、目は澱んで
既にそこに光は見えなかった。彼女はしばらく私の顔を見つめた後、うな垂れ
るように顔を伏せて力なく言い放った。

「……精が欲しい。何百、何万の精が。この身体の全てを満たすような精と快
楽が欲しい……」

 それっきり彼女は黙りこくった。
 だが私はその言葉だけで満足だった。

「分かりました。手始めに私がお相手しましょう。……では四つん這いになる
のです」

 私は彼女の四肢を支配したまま、言葉どおり四つん這いにさせた。形良い彼
女の臀部が持ち上がる。

「こんなものはもう必要ありませんね」

 そういって彼女の着ていた白い衣服を剥ぎ捨てた。だらりと大きな胸が垂れ
下がる。その先端に付いている突起物は既に緋色に尖っていて、股間の花弁か
らは透明な蜜が溢れ出していた。

「まぁ、ハシタナイ格好ですね。それになんです、その濡れようは。たしか貴
女処女じゃありませんでしたか?」

 そんな言葉にアルクェイドは羞恥に頬を染めることもなく、ただ再び元気を
取り戻した私の男根に目を奪われていた。彼女の眼はもうそれしか見えていな
いようだった。

「しょうがない人ですね。わかりました、そんなに是が欲しいのなら今入れて
あげます」

 そう言って彼女の口の前にそそり立つ陰茎を突き出した。
 ついでに私の持つ力を少し行使する。魔力を解き放つとそこにはもう2本、
私の股に生えているものと同じ物が空中に出現した。

「空間を歪めてあるものを別の場所に存在させる術です。それらは極々短時間
で時分割させて存在しているので基本的には同じモノなのですけれどね。別の
表現をすると「分身」と言うやつでしょうか。ともかくこれで、貴女の上下と
後ろの穴を3つ同時に犯して差し上げられます。準備はいいかしら?」

 そんな説明も聞こえているのかいないのか。
 アルクェイドの目も口も何も語らなかった。

「ぐうぅぅぅぅっ!」

 ゆっくりと上下と後ろの穴の3つに同時に挿入していく。
 上の口はともかく、処女の膣とアナルは十分濡れそぼっているにも関らず肉
全体が陰茎を押し戻そうとしていた。

「初めに言っておきますが噛んじゃダメですよ。痛くても我慢するんです。い
いですね?」

 彼女はこくんと頷いたような気がするが、初めての異物の挿入にどこまで余
裕があるだろうか。その顔は苦痛に歪みながらも少しづつ3本のそれを受け入
れ初めていった。

「ふあぁぁぁぁ……」

 息もまともに出来ないほどきついのだろうか。彼女は私のモノを咥えたまま
大きく深呼吸をした。
 そのまま更に3本の陰茎を深く挿入していく。

「……いい……」
「……え?」

 よく聞き取れなかった。彼女はいまなんと言ったのだろう。

「気持ち…が……いい」
「……はぁ」
「頭の奥が痺れて……おかしくなりそう……」

 咥えたままで喋っているからもごもごと聞き取りにくかったが、確かに彼女
はそう言った。

 呆れたことに彼女は痛みで顔を歪めていたわけではない。
 既に快楽に溺れていたのだ。性体験は初めてだというのになんという適応力
だろうか。
 ……それとも精を求める衝動が痛みを上回ったのか。

 とにかく、あとはただ快楽を貪るだけだった。
 腰を前後にグラインドさせれば、口・膣口・アヌスに入っている陰茎が前後
同時に動作する。奥に突き入れれば肉壁を擦りつけ、喉元や子宮口まで激しく
刺激する。ついでに彼女の淫核と乳首を私の口の中に空間湾曲させ、それらを
舌先でペロペロと舐め上げた。

「はぁぁぁぁっ!」

 ビクンビクンと彼女の背が仰け反った。
 快楽の波が一気に襲ったのだろう。彼女の前後の穴はピクピクと痙攣し締め
付ける力が強くなった。
 男根はますます彼女に締め付けられ動かすのも精一杯だ。
 だがそれがまた異常な快楽をこちらに与える。
 ハッキリ言ってこの快楽は先ほどの比ではなかった。
 
 腰の動きを止められない。
 一振り動かすことに気と精を吸い取られるような感覚。
 私には早くも限界が近づいて来ていた。

「くっ、なんという純粋な欲求衝動。これが貴女の抑えていた吸血衝動の大き
さだったというのですか」

 その身体は私の支配下にあるというのに、アルクェイドは全身を使って私の
全てを吸い取ろうとしていた。自ら腰をくねらせ最も快楽を味わえる場所を探
し出している。
 もはや私の封印を打ち破っているのかも知れない。今まで吸血衝動を抑える
ために使っていた自らの力を100%解放したのだからそれは十分ありえる話
だった。それでもなおアルクェイドは私を求めて口と腰を動かしていた。逃げ
ようとも戦おうともせず。
 ただ必死に。

 ……ふいにその姿が愛おしくなった。
 アルクェイドがただ快楽を求めているのは知っている。
 堕ちてしまった彼女が求めるのは特定の人物の精などではない。誰でも構わ
ない、例えば全人類の精だろうと彼女は求め吸い取ってしまえるだろう。
 だから今の彼女が見ているものは私であって私ではない。

 しかし、私はどうだったろう。
 あの日、八百年前初めて彼女を見たとき、その姿、存在に心奪われた。
 初めて自分自身以外のことを意識した。
 今まで自分の理想と目標を追いかけ研究に没頭すること以外は何も関心がな
かった私だが、彼女を知った暫くの間、白痴のように知の探求も不死の研究も
何もかも手が付かなくなっていた。

 自分が自分で無くなる感覚。
 その後は、この恐ろしい存在を消すことしか思い浮かばなかった。
 私という存在を汚したこの女を。

 しかし、今ならば分かる。
 あの時の感覚をなんと表現すれば良いのか。
 十七回もの転生を経て得られた様々な知識の中で、最初の存在が持っていな
かった感情。
 ――――すなわち恋心。

 思えば今世の身体が覚醒する前に、わたしがそんな感情を抱いていた男が存
在した。
 その相手とは話をするだけで動悸が速くなり体温が上昇しまともな思考が出
来なくなっていた。
 私はその状態を分析しそれを敵と認識していたが、わたしはその相手と相愛
の仲になりたいと切望する毎日だった。
 だからだろう。この私が覚醒したとき、彼を最初の下僕にしてやった。
 純潔とやらも彼に与えてやった。何度も何度も淫欲に耽り、彼の血と精を取
り込んでやった。
 至上の歓びと快楽に何度も絶頂し哄笑していた。
 しかし、同時にわたしは心が張り裂けていた。
 何度も何度も心の中で叫び嘆き悲しみ苦しんだ。
 これほどの苦行があるだろうか。
 愛するものを殺め、なお道具として扱う非道な行為にわたしは死を持って償
いたかった。

 そんな感情を払拭したかった。
 私は彼を塵へと変えた。一瞬にして彼はわたしの前から消えて居なくなった。
 消えると思っていた感情は悔恨と愁嘆に姿を変え一層それは深くなった。
 私は街中の人間を彼と同じように扱った。だがその感情はますます深くなる
だけだった。

 そして今、気付いてしまった。
 私のアルクェイドに対して持っていた感情は私の思い違いだったのではない
か?
 私は彼女に憎悪ではなく至愛の念を持って接したかったのではなかったのか?

 永い時間心の奥底に封じられていたわだかまりは、十七回目の転生によって
表層に晒されてしまう。
 それを私自身が認めたとき、心の中に何かが満ちていった。
 古ぼけた本にワインが注がれるように。
 項の1枚1枚に赤い液体がゆっくりと染み込んでいくようだった。

「うぅっ!」

 びゅっ! びゅくぅ!
 溜め込んでいたものが感情と共に一気に爆ぜた。
 それらは熱を帯びたアルクェイドの粘膜の中へと吸い取られていく。
 筋肉の痙攣によって生み出される快楽の余韻に長い時間浸りながら、わたし
はゆっくりと残った精を彼女の中へ注いでいった。

「わたし、理解ちゃいました。何でこんなに貴女を憎んでいたのか」

 アルクェイドはわたしの話を聞いているのかいないのか、肩で息を付いてい
るだけだった。

「そして、何でこんなに貴女を愛おしいと思ったのか」

 彼女は何も言わない。

「おかしな話ですよね。……女性に転生してようやく自分の持っていたわだか
まりの正体が分かったんですから」

 そう、わたしの愛しかった人を自分の手で殺めてしまったときから、この感
情には気付いていた。
 ただそれを認めたくなかっただけ。
 求めてしまえばこの八百年間、支えとしてきた自我を失いかけないから。

「でも、もう大丈夫です」

 アルクェイドの顎に手をやり、こちらに顔を向かせる。
 彼女の眼はすでにどこも見つめてはいなかった。
 ただ、そこに紅い闇があるだけだった。

「わたし、貴女をもう永遠に手放しはしませんから」


 §


 そして数年後。
 あのアルクェイドとの夜の後、すぐに追って来た教会の連中を薙ぎ払い、そ
の足で法王庁を壊滅させた。鬱陶しい埋葬機関も魔術協会もまとめて闇へと葬
り去った。
 死徒二十七祖たちも、対抗した者は塵へと返し、残ったものは組織的に束ね
た。逃げ出した者たちも何人かいたようだがそれは些末なこととした。

 今日は真に満月となる儀式には最適な日。
 アルクェイドに植え込んだ種も順調に成長し、彼女はすでに臨月を迎えていた。
 全てが予定通りだ。

 ブリュンスタッド城を望む山々の中腹。
 疎らに生えた木々の少し開けた場所でその時を待った。
 樫の木で作られた十字架に貼り付けられたアルクェイドの脹らんだお腹を擦
りながら彼女を見上げた。あの日以来彼女の瞳は光を失ったままだ。

「貴女の子はどのくらいの力を秘めているんでしょうね」

 手のひらで優しく撫でる。
 人間の寿命には限界がある。それは死徒になったからとて同様だ。
 永遠を生きるためには生半可な力を求めても無駄だ。
 死を超越した生命と共に生きるには、死を超越した生命に生まれ変わらなく
てはならない。

「エレイシア様。そろそろお時間でございます」
「……わかっています。後は頼みましたよ、オーテンロッセ」
「御意に」

 わたしは聖獣の牙で作った剣を胸に当て、もう一度彼女を見上げた。
 その横顔は美しく初めて見たあの夜と比べてまったく遜色がなかった。
 長く伸びた金色の髪が風になびく。
 わたしは静かに刃を胸に落とし、ゆっくりと死を迎え入れた。

 わたしは転生無限者、エレイシア・ド・グランクロッシェ。
 わたしの研究は父の意思を継ぎ、次のステップへと移行する。
 空には神代の満月が浮かんでいた。

 ――――さぁ、儀式を始めましょう。




 - fin -