朝の通学路。
 いつもより早く家を出たから、まだそんなには行き交う人は少ない。
 それでも、誰かとすれ違ったり、朝練か何かで足早で追い越していく同じ学
校の生徒に、いちいちピクリと反応してしまう。
 何かの拍子に転んだらなどと、普段運動能力には絶大の自信を持っているの
にビクビクとしながらゆっくりと足を動かす。
   
 学校の正門の前に、一人佇んでいる男子生徒の姿が見える。
 人待ち顔で立っていた彼が私を見て手を振る。
 遠野くんだ……。
 いつも遅刻ぎりぎりの彼がこんな早く来るなんて。
 でも心の何処かでそれを予期していたようで、不思議と驚きは無かった。
 急ぐでもなく、でも歩みを遅くするでもなく、彼のもとへ足を進める。

「ずいぶん早いんだね、先輩」
「遠野くんこそ」

二人で見つめ合って沈黙。

「で、どうなのかな」
「どうと言いますと?」
「シエル先輩、ちゃんと言いつけに従ってくれたのかなあって」
「約束は、守ります……」

 どうしますか、という風に遠野くんの目を見ると、遠野くんは私の手を引っ
張るようにして校舎裏の陰、1日中誰も立ち寄らないような処へ私を連れ込ん
だ。

「ここなら、誰も来ませんよ」

 じっと遠野くんが私を見つめる。

 証を見せろ、と言う事だろう。
 しばし逡巡し、遠野くんが無言で命じるまま、スカートの裾を掴んでそろそ
ろと上に持ち上げる。
 目を背けて横を向いているが、遠野くんの視線を感じる。
 私のそこをじっと見つめている。
 膝が露わになり、太ももが少しずつ晒される。
 そして、さらにその上。
 普段なら隠されているそこが、剥き出しになって遠野くんの目に曝け出される。
 数秒そうしていたが耐えがたくなり、指で摘んでいた布地を離す。

「もう、いいでしょう」
「あ、ああ。ちゃんと下着を着けないで来てくれたんだ」

「上も確認しますか?」

 言いながら制服の胸元のリボンを緩める。
 ベストがあるから、外観からはほとんど分からない筈だが、今の私は遠野く
んが命じた通りの姿をしている。

「明日、下着を着けないで学校に来てください。上も下も……」

 その言葉の通りの姿だった。
 
 ブラウスの上のボタンを外して胸元を広げるようにする。

「いいよ、先輩、わかった」

 そこまでで許してもらえた。

「それにしてもブラジャーしてないといつもより胸が大きく見えるね」

 ……。
 気にしていた事を言われた。
 大した違いは無い筈だが、つけていないとやはり落ち着かない。
 普段より不安定で頼りないし、何かの拍子に揺れたりして、こちらを見てい
る人の目が気になる。自意識過剰だとは思っているけど。

「そうですか」

 ああ、軽く受け流すつもりが、感情が過度に抜けた声になっている。

「じゃあ、行きましょうか、シエル先輩。今日一日はその格好で我慢してね」


               §  §  § 

「シエル先輩……」

 3限目が終わった休み時間。ふと教室を出ると、遠野くんの姿があった。
 目が合うと、視線で階段脇の一角に行くよう促される。
 遠野くんは邪心の無い笑みを浮かべている。とても私に酷い事を強要してい
るようには思えない。でも、純真な子供が一番残酷な一面を持つと言うし……。

「どうしたんです」

 この短い空き時間にわざわざ上級生の教室までやって来たのだ。何も無い訳
が無い。

「先輩の顔が見たかったんだよ」

 普段なら、その言葉がどんなに嬉しかったろう。でも……。
 と、遠野くんがポケットをごそごそやっているのが妙に目を引いた。
何だろう。
 嫌な予感。

 朝から下着無しの恥ずかしい格好で学校に来るように命じて、そのまま授業
を受ける事を強要させているのだ。
 そしてこの後、学校の中で私の体を欲しいままにしてしまうつもりなのだ。
 それならば、その間に何かまた酷い事をさせるのかもしれない。
 例えば……。
 そう、授業中に……。
 くっきりとした光景が頭に浮かんだ。

 ―――何事も無く授業が進められる教室内。
 授業開始から10分、20分と時が流れる。
 やがて、私の様子に外から分かる異変が起こる。
 それは微かに震える体であり、蒼褪めた顔であり、うつむき加減にして声を
押し殺している姿であり……。
 必死に私は堪えているのだ。
 声が洩れるのを。
 机に突っ伏してしまうのを。
 手をそこへ潜らせてしまいそうになるのを。

 周りのクラスメートに訝しげな目で見られながらも何とか平静を保っている
と、急に先生に指されてしまう。
 前に出て黒板に書かれた問題を解くように命じられる。
 なるべく不自然に見えないように姿勢を正しながら、のろのろと歩きチョー
クを手に取る。
 脂汗を浮かべながらも数式を解いていく私。
 やっと終わるというその時、チョークがぼきりと折れ、そのまま黒板に爪を
立てて私は崩れるようにしゃがみこむ。
 集まるクラスメートの奇異の目、目、目……。

 授業が始まってからずっと私の体を苛んでいたそれの音が妙に大きく感じら
れる。教室中に響き渡っているかのように。
 遠野くんから手渡され、授業中に挿入しておく事を強要されていた樹脂製の
小道具。
 ずっと微かな振動を続け、性感を刺激し快楽の波を体中に広げていたローダー。
 皆の見ている前で絶頂を迎え崩れ落ちた私を、薄笑いを浮かべた遠野くんが
見つめている。
 その手にはスイッチを強にしたリモコンが握られていた……。
 ・
 ・
 ・
 
 酷い、酷いです。
 鬼畜です、外道です、悪魔です、遠野くん。

「あの、シエル先輩、どうしたの? 真っ赤な顔して……」
「遠野くん、授業中に何て事を。酷すぎます」

 そんな私に有無を言わせず、遠野くんは、遠野くんは……。

「……。あのね、シエル先輩。何考えてたのか知らないけど、俺、先輩とは教
室違うし、何もできないんだけど」
「え。……、ああっ」

 その通りだ。もうおかしくなり始めているのだろうか。

「でも、それじゃ何をしに来たんです」
「だから、本当に先輩の様子を見に来たんだってば。それとお昼のお誘いに」
「そうですか。それはかまいませんけど、それでわざわざ?」
「うん。昼は20分程遅らせて、皆いなくなった頃に食堂に来て欲しいんだけど」

 ちらと見せた遠野くんの不思議な笑み。
 それが何か分からなかったけど、とりあえず私には遠野くんの言葉に頷くし
かなかった。

                                      《つづく》