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結論から言えば、ウメサンドはそれなりに食べられるものだった。あくまで
も「それなりに」である。翡翠はあれから料理の練習を自分と一緒にしている
ために食べれる程度には料理の腕は上達した。あくまでも「食べれる程度」で
あるが。
無論のこと、彼女の料理は完食した。その代償に、軽くよろめいた所に二、
三発ほど良い打撃を食らってしまったような、そんなふらついた感覚を存分に
味わうことになったが。
とにかく食後の休憩をたっぷりとって気分を落ち着かせないと。
もう。
少しでも動いたら。
うぅ。
っぐぅ。
―――――はぁ、風が気持ち良い。
押し寄せた峠を越えたことに、とりあえず安堵の息を漏らした。
さて。
不思議そうに覗き込む翡翠に、どう誤魔化せばいいものか。
さすがに午後はジェットコースターの連続乗りには行かなかった。翡翠自身
が他のものに乗りたいと言っていたし、こちらとしても何とか言いくるめて別
のものに乗ろうとしていただろう。
そして。
二人で遊園地内を廻り廻って、最後に残った一つの乗り物。他のものは大抵
制覇した。無論一筋縄ではいかないトラブルばかりであったが。
目の前に高く聳え立つそれを見ると、これを最後にしたのは偶然ではなく、
翡翠が最後にこれに乗ることを望んだのではないだろうかとなんとなく感じる。
輪を描く花のような観覧車。
閉館時間を目前として、西日をいっぱいに浴びているその姿はオレンジ色に
飾られて深い影をこちらに重ねている。
「志貴様?」
その花を茫洋と見上げていると翡翠が小首を傾げてこちらを覗きこむ。見上
げた意識を翡翠に戻し微笑んでやる。
「ん。何でもない。さ、時間も押しているし、行こうか」
「そうですね、志貴様」
どちらともなく手を繋ぎ、燃えるように真っ赤な道を花に向かって歩いてい
った。
観覧車の中で向かい合うように座りながら景色を眺める。沈みつつある西日
は群青色の闇に押し寄せられて、沈むというよりも埋もれてしまいそうだ。光
を飲み込んでいく影は、こちらにも差し込んでおり夕焼けの僅かな陽と競り合
う。
ゆっくり、じわじわ、ぎりぎり。
そんな言葉や擬音が聞こえてきそうなほどに、陽と影は拮抗していた。だが
夜の中の摂理故に夕日は押し戻される。
それでも陽は抗う。
そうしているうちに時間は流れ、自分たちは時計で言うと10時の位置に来
ていた。思っていたよりも遅い。ここの観覧車はゆっくりしたスピードが売り
なのだろうか。
微かな夕日が翡翠の輪郭をぼやけさせる。はっきりしない顔の線は光の残滓
のせいか、押し寄せる闇のせいか。うっすらと浮かび上がるそれは、今にも失
われてしまいそうなほどに儚く、そして陽と宵の合間に揺れていた。
言葉は出ない。
どちらともなく出すことも無い。
ただ、沈む日を眺めているだけ。
無理と解っていても抗う夕日を眺めているだけ。
見つめる翡翠の姿は今日を惜しんでいるように思えた。沈み行く日を眺めな
がら、今日という楽しい時間の終焉を同時に眺めている。その目つきは真摯に
輝き、オレンジの彩を内包していた。どこまでも純真にただ一点を見据える翡
翠。
それはまるで夕日が宵闇に抗うように、今日という一日を必死に守ろうとし
ているかのように思えた。
無理なのに。
終わってしまうのに。
今日は昨日に変わって、明日が今日に変わるのに。
それでも今日という日を惜しんでいる。
軽く窓からの景色を仰ぐとぼんやりとした月が見えた。
それが、どこか物悲しい。
だけど。
それでも、今日という日を楽しめたのはとても素晴らしいことだ。
掛け値なしに遠野志貴はそう思える。
好きな人と遊園地に来て、乗り物を制覇し、お昼ご飯にお弁当を食べる。そ
して残りの時間を満喫して、観覧車で一日を終える。それは他人から見ればど
うということのないデートの光景の一つに見えるだろう。
だが、それでも。何気ないことだろうとも、ただそれだけで、ただ何気ない
ことを二人ですごせたことが嬉しい。
それだけが、ただ幸せ。
二人だけですごせたことが。
そして日常に戻れば。
また二人きり。
広い屋敷。人が住むにしてはあまりにも大きなそのお屋敷は、帰ってきてか
らの短い時間に沢山の思い出を遠野志貴に残してくれた。だが時折、その屋敷
の巨大さに飲み込まれてしまいそうになる。宵の時を迎えれば、静かなそこは
より静かになり、むしろ静謐といった言葉に近くなるほど。
だが、その静けさは昔から。
だけど、その広がる闇が自らの漠然とした不安を表しているようで厭だった。
でも、翡翠がいてくれる。
翡翠がいてくれる、でも。
ふと―――思い出してしまう。
こんなに楽しいのに。
いや。
こんなに楽しいからこそ。
失ったものを思い出してしまう。
気がつけば頬を湿った筋が伝っていた。どうやら知らず知らずのうちに涙を
流してしまっていたらしい。零れ落ちてくる雫を止めるすべを自分は持ってい
なかった、それを拭うつもりもまったくなかった。
ただただ、流れる涙を受け入れて泣いた。
不思議と嗚咽の声は出なかった。その透明色をした雫が夕日の明かりを宿し
て落ちる。
見れば。
翡翠も同じように夕日を見つめて涙していた。
彼女も同じ理由で泣いているのだろうか。この一日があまりにも楽しかった
から、それ故に失ったものを惜しんでしまって泣いたのだろうか。この場に、
あの二人がいたらどれだけ楽しかっただろうか、と考えてしまったのだろうか。
もういない。
帰ってこない、遠野秋葉。
もういない。
帰ってこない、琥珀。
もういない。
帰ってこない、俺たちの家族。
気づいていたら翡翠の名前を口にしていた。ひどく小さく、ひどく震えた、
弱々しくも儚い声。この声が自分の口から出てきたということに実感がわかな
い。
そんなこちらの声にも関わらず、彼女にはしっかりと聞こえていたらしい。
瞳の雫を拭おうとせず、こちらへと顔を向ける。
「―――志貴様! な、ないて」
「翡翠も………涙、こぼれてる」
こちらの涙に驚く翡翠の身体に手をやり、素早くこちらへと引き寄せる。華
奢で軽く、柔らかい翡翠が抵抗もなくこちらへとその身をあずけた。
腕の中にすっぽりとおさまる翡翠は思っていたよりもずっと繊細なイメージ。
現在の彼女の感情なども左右しているのだろう、壊れそうなガラス細工のよう
に、細かい感覚が彼女の肌からこちらの肌へと伝わってくる。
鼻にかかる翡翠の髪の毛。こちらの肌を優しく刺激する翡翠の身体。香水の
類をつけている様子はなかったのに、頭の中を心地よくさせるようないい匂い
がした。人工物では出すことのできない天然物―――翡翠だけが持っている香
り。
思考を麻痺させて、脳髄から脳みそのしわまで全てを刺激されたような感覚
が頭の中を駆け巡る。
「んっ、しき、さま」
「ひすい、やわらかい」
短く言って、翡翠の頬とこちらの頬をくっつける。そのまま涙の痕を擦り合
わせるように頬擦り。まるで傷痕を舐めあっているみたいに優しく、丁寧に相
手を愛しむスキンシップ。
やわらかい頬は気持ちよく、細々と漏れる翡翠の声が気持ちを昂ぶらせる。
「ぁぅ……ダメ、ですっ……ふぁ」
「何で? ……んっ、ちゅ」
問いつつも、翡翠の頬に唇を這わせる。そのやわらかい部分を口唇だけで挟
んで引っ張ったり、ひねったり、吸い出したりして味わった。なんというか、
癖になりそうな甘さ。それでいて涙の痕はしょっぱい。
「観覧車……っ、が、もう、てっぺんまで……」
気づけば、もう頭頂部の12時の場所にまで到達していた。このまま行為を
続ける余裕は下に戻るまでの僅かな時間には存在しない。
このまま、先に進めないのは残念だったが仕方がない。軽く甘えるだけで終
わらせようと思い、翡翠の耳を舐めようとしたときだった。
背中を押されたような衝撃で身体が押し出される。反射的に足を踏ん張って、
抱きしめる腕に力を込めたために、無防備に身体を預けていた翡翠に怪我は無
かったようだ。
安堵に胸を撫で下ろすと、聞きなれないコール音。どこか古めかしく、事務
的な印象を覚える。
そのコール音の発信源―――椅子の下を見ると非常用の電話が一つ。それを
取って遊園地の係員から事情を説明される。内容に軽く返答をし、通信を切る。
椅子にもたれるようにしている翡翠を見やれば、どこか心配そうな様子でこち
らを見つめていた。
そんな彼女を安心させるように、髪の毛を撫でてやった。キレイで癖の無い
髪の毛は触っているだけで肌に優しい刺激を与えてくれる。
未だ当惑気味の翡翠に笑顔を一つ。そして、彼女を抱き上げて膝の上に座ら
せる。こちらは椅子にもたれ、その上に翡翠という形になった。お互い向き合
うような体制。ここの観覧車の椅子が深くよりかかれるタイプで助かった。上
になっている翡翠に負担がそれほどない。
不安の残っている抱きしめてやるが、彼女の困惑は拭えていない。
「志貴様。いったいどうなされたのですか?」
「―――続きができるようになったの」
そう言って、翡翠の首筋に顔をうずめた。緊張しているのか軽く汗ばんでい
る。ただの汗だというのに、どうしてこうもいい匂いがするのか。まるで果物
の果汁のように瑞々しく甘美なイメージ。その汗を味わう。
「んあっ……しき、志貴さま?」
「うん……大丈夫。故障したみたい、観覧車」
さらりと言う。大事のように聞こえるが、ここ最近この観覧車は調子が悪い
らしい。修理の担当も上がったばかりなので、携帯で連絡し戻って修理するま
で多くて2時間ほどかかるらしい。一般客にしてみればたまったものではない
だろうが、こちらとしてみれば十分すぎるほどの時間の余裕が生まれたことに
なる。
「そうだったんですか」
「そうだったんです。だから……」
「だから?」
「翡翠も遠慮しなくていいよ」
そのまま翡翠の身体に手をかける。抱きしめていた手を動かし、私服ごしか
ら胸へと。
震える気配がしたが構わない、そのまま服の上から翡翠の胸の形を確かめる
ようにまさぐった。やわらかい生地のさらに奥に感じるやわらかさ。それを手
の平で確かに感じることができる。
「んぁう、志貴さまっ、ぅぅ」
必死に声を押し殺そうとする翡翠。そんな彼女の健気な努力が可愛かった。
大丈夫だから、翡翠。
ここには俺たちしかいない。この小さな籠は今だけは二人きりの世界。
二人きりの。
二人だけの。
「―――っあ」
また涙を流してしまっていた。一度、失ったものを意識するとすぐに涙腺は
決壊してしまう。拭おうとするが、それをやんわりと翡翠が止めた。
「翡翠?」
「志貴様……ぁ、その、失礼します」
目じりを下げた瞳でこちらを覗き、熱のこもった声で顔を寄せてくる。そし
て今度は翡翠がこちらの涙を舐める。
「はむ、んぁ…っちゅ、ふ……はぁ、ぁふ……ぅ」
「……翡翠」
その暖かい吐息に誘われるように唇を差し出す。翡翠はこちらの要求に応え、
自らの唇でそれを塞いだ。だが、翡翠がするのはここまで。物足りない自分は、
さらに舌を割りいれる。
舌同士がぬめり、からみあい、蕩けた唾液を混ぜあわせる。口の間から唾液
がだらしなく零れるが、そんなことは気にしていられない。
のしかかってくる翡翠を片手で抱きしめ、もう片方の手は背中をなぞるよう
に這わせてゆく。上から、下へ。背骨をなぞられる感覚に、翡翠が身を震わせ
て弓なりになる。そのときの「くうっ」という表情がたまらなくなって、また
苛めたくなってしまう。
さらに下へと進む手は、布の上のなだらかな曲線を滑り、そしてさらに下へ。
翡翠の尻まで到達すると、今度はその尻を撫でるように動かした。下から、
上へ。最初はやさしく、二度目は軽く指を食い込ませて。ショーツごしだとい
うのに、押し返す弾力は指先の神経に収束した集中力を簡単に麻痺させてしま
う。三度目は肌ではなく、そのショーツの布部分だけを触るようにギリギリの
ラインをなぞる。
「ふ……ぁ、ぁぁぅ、ん、ぁ、志貴様、そんな、いじわるしないで」
「ん、いじわるかなぁ? じゃあ、翡翠はどうして欲しいの?」
「…………」
優しく笑顔を浮かべて卑猥な言葉を誘う。羞恥心で朱に染まった翡翠の顔が
燃える夕闇に栄えた。彼女は何度かパクパクと口を動かすが、言葉を紡げずに
閉口。
「どうしたの、翡翠?」
「しきさま……」
「ん?」
「……ぅぅ、志貴様のいじわる」
涙を浮かべてこちらを見つめるそれは反則だ。あんまりにも可愛すぎて、抱
きしめても抱きしめ足りないほど。
「わかったってば、ごめんね、翡翠」
「……はい、志貴様」
「まったく、可愛いなぁ翡翠は」
呟きながら、止めていた手を動かす。尻を撫でる動きをそのままに、親指を
布にひっかけて無駄なくショーツを脱がした。翡翠の白くて丸い、可愛らしい
お尻がポロンと零れる。ショーツはさらに脱がし、片足に引っ掛けて残してお
く。
うん。
やっぱ、こうでないと。
「志貴様……その、恥ずかしいです」
「大丈夫だって、てっぺんなんだから誰も見ていないよ」
「………は、はぃ」
視線を落とせば、翡翠の女性器があらわになって西日を受ける。緊張感が抜
けないのか、たくし上げられたスカートの下に見える下腹部が、至近距離から
伝わる早鐘のように短いテンポで上下。そこを微かなきらめきが彩る。
きらめき?
「翡翠、濡れてるよ」
「ぁ、志貴様、そんな、あの、これは」
「もう感じちゃったんだ、我慢できないんだね翡翠は。いけない娘だなぁ」
「その……失礼しました」
律儀に謝ってくる翡翠。そんな彼女を見てますます笑みが深くなってしまう。
しかたない、という溜息をわざとらしく一つ。
「じゃあ、エッチなメイドさんには軽いお仕置きを上げないとね」
「は……はぃ、志貴様」
同意を求める声に、同意で返す。
しばしの思案を経て、翡翠に要求を告げた。
「……ぇえ、そ、それは」
「ダメかな?」
「いえ、無理ではありません……」
「そうだよ、簡単なことだろ」
「……はい。解りました」
「うん、よろしい。じゃあ、始めようか」
《つづく》
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