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宵の月は雲に隠れ、そこにはまさしく闇しか残っていない。
光を遮り、奪う闇は残る灯火すらも奪おうというのか。
(ごめんなさい)
心の中で一言謝って、翡翠は志貴の身体に手を触れる。
男性恐怖症故か、肌と肌が触れ合う直前まで痺れや痛痒にも似た感覚が神経
を焼いたが、一度でも触れてしまえば後は大丈夫であった。志貴の肌が予想以
上に生気を感じさせない冷たさだったからかもしれない。
失礼します、と一言告げて、志貴の身体を動かしにかかる、ベッドに寝かさ
れたその体勢から、枕元に腰を上げて座るような体勢へ。そして、その向かい
に翡翠が座る。志貴は相変わらずの状態だが、それでも翡翠は互いに見合った
状態に頬に朱を含ませた。
「ごめんなさい、志貴様。わたしはあなたが大好きです」
それは本心からの言葉。
翡翠は志貴を愛していた。
少女の持つ陳腐で夢見がちな感情ではなく、一人の女性として志貴を欲して
いた。
それが一方通行だとしても、気持ちは変わらない。
だけど、その本心は志貴に告げることができない。彼女は解っているから、
志貴が翡翠ではなく秋葉を愛するということを。それだからこそ志貴の選んだ
選択があるのだし、今の志貴の状況が存在しているのだ。それを忘れてなどい
ない。
だから翡翠は志貴に仕え続けることを選んだ。
志貴が好きだから、志貴のために尽くしたいから、志貴がそばにいてほしい
から、だから彼女は志貴の後ろに立つ。
隣に立つのは、秋葉でも構わない。
ただ、そばにいられれば満足。
だが、現状はそれすらも赦そうとはしてくれない。
死の腕に志貴は着実に絡み取られてゆき、生と言う吐息は、死という名の闇
に飲み込まれていきそう。
翡翠は、自らのスカートの裾をたくし上げてゆく。
メイド服のスカートは長く、ゆっくりゆっくりと緊張の面持ちを含んだ様子
で捲られていくその中は、翡翠の柔肌を薄く護るストッキングやショーツ。表
情は今にも泣き出してしまいそうなほど。だが、彼女は続ける。ストッキング
を脱ぎ、その下のショーツを脱ぎにかかった。
翡翠の秘所が、自らの手で露になる。
張り詰めた空気にさらされて、震えるように秘唇。これからの行為に緊張し
ているのか、高揚しているのか、秘部は僅かな赤みを帯びていた。
「ごめんなさい、秋葉様―――わたしは志貴様を抱きます」
そっと、懺悔するように重々しい口調。
秋葉という存在は翡翠にとっては本当にかけがえの無い存在であった。そこ
に嘘偽りは無く、本心のみ。幼少の頃から、彼女と遊び、志貴と一緒に笑顔で
駆け抜ける彼女を見つめ、翡翠は本当に嬉しく思い、彼女の幸せを志貴の幸せ
と共に願った。本当に秋葉のことが翡翠は好きだったのだ。
だから翡翠自身、身を引くことが出来た。
志貴と秋葉が互いを思うことを翡翠は―――従者という立場ではなく、一人
の女性として素直に認め、祝福した。
だから、彼女は謝罪する。
己がこれから犯す禁忌に。
愛した人を助けるために抱く。その人の本当に愛する女性を裏切るようなそ
の行為は、どんな大義名分を掲げようとも烙印となって翡翠に刻まれるだろう。
部屋は暖房が効いているはずなのに、空気が凍りついたように鋭い。その空
気に身を刻まれてしまうような思いを秘めて、翡翠は自らの下腹部へと手を伸
ばしてゆく。自らを切りつけるように、罪を刻むように。
白く、細かい美しさを持った指先がそっと割れ目に触れる。まだ差し込みは
せずに、周囲の柔肌を引っ掻くように指先で撫で付けてゆく。緊張でのためか、
じっとりと汗ばんだ股間と指先が雫を混じらせて滑りを良くする。
手の平から伝わる感覚は、冷たく、軽い痛みすらも伴う。敏感な部分に触れ
た冷気は、まるで刃の腹で撫で付けられているかのよう。その身を刺激する冷
たい快感に翡翠の瞳が軽く落ちてゆく。
室内の静寂に反して、翡翠の吐息は次第に荒くなっていった。
すっかりと熱のこもったそれは、志貴の目前で霧散し、生暖かく絡みつくよ
うな雰囲気を次第に形成し始めていく。それに当てられたのか、翡翠の指が割
れ目の中へ、つぷ、という軽い響きを立てて侵入。それだけで、翡翠の口から
は吐くような深い息が零れて溢れ出してゆく。
言葉にならない息を漏らしながらも、翡翠の指が僅かに深く、股間の中に押
し入る。そのまま内壁を指の腹で撫でるように優しく、優しく。
だが、経験どころか一人でしたことすらない翡翠は、それだけでベッドの上
で身体を捩じらせてしまう。その目前にはもたれる様に項垂れる志貴の姿。瞳
を開けずとも、閉じた先の視線が翡翠の身体を弄る。
見られている。
志貴が、自分の痴態を見ている。
ただそれを思うだけで、翡翠の体温は上気して、顔は真っ赤になってしまう。
翡翠の指と大陰唇の間から、微かに湿り気のある音が漏れる。指を動かすた
びにその音はハッキリとしたものになっていき、鋭い空気の室内に反響するよ
うに響き渡る。翡翠の身がその音を浴びて悶え、さらに深く潤いを持った音を
奏でる。
ちゅぷり、と。
冷たかった指がいつの間にか熱を持ち始めた。その熱は確かな感触をもって、
指先から手の平へとぬめり落ちてゆく。
熱い、とろりとした、翡翠の汁。
自らが零れ落としたそれを愛しむように翡翠は、手の平のそれを、割れ目へ
と塗りたくってゆく。上から下へ、下から上へ。中には入れずに、入り口の部
分を刺激してゆく。自らの愛撫で、彼女はさらに身を震わせ志貴を見上げる。
潤んだ上目遣いで、窺うような従者の瞳。
対するは、何も語らぬ凍りついた主の瞳。
翡翠の指は止まらない。ゆっくりと律動を繰り返し、膣内をかき混ぜてゆく
その動作は次第に荒く、激しくなり、ぬめった音をさらに大きく響かせてゆく。
指を咥え込んだスリットは、それだけでは物足りない、とでも言いたそうに
膣壁をうねらせて翡翠の指をキュッと締め上げる。それが自らの理性を離れた
本音なのか、翡翠はどこか乖離しつつある理性を見上げるようにくちゅくちゅ
と泡立てるように愛液をかき混ぜる。
嬌声を押さえるようにして身悶える翡翠が、寄りかかる志貴を覗き込む。
凍りついたように眠る主人は力無く、だらんと身体を項垂れたままにしてい
た。
荒い吐息を漏らしつつ、翡翠の手が志貴へと。
そっと触れる、指先と指先。
最早、翡翠に志貴という男性への恐れは無い。
志貴の指先が翡翠の指に絡み取られ、そのまま誘われるように引き寄せられ
てゆく。しな垂れた指先は彼女のぬくもりに包まれながらも、ピクリと動く気
配すら見せない。引き寄せた指先を、翡翠はそっと―――。
「んっ……はむ」
しゃぶる様に咥え込んだ。
人差し指の先っぽだけを口腔に収め、舌を使って指先から爪まで丹念に舐め
しゃぶってゆく。とろりとした生暖かい唾液が志貴の指へと浸透してゆき、そ
の雫が先から根元へ流れていくのを追うように翡翠も奥まで咥え込んでゆく。
舌を使って、根元の指の間もしっかりと舐め取る。
そして翡翠は咥え込んだ指を、今度は横から、はむっ、とハーモニカでも吹
くように咥え込んだ。歯が当たらないように唇の上下で、やわらかく。
翡翠が志貴の指をしゃぶる姿は、端から見たらさぞかし浅ましい姿で映って
いたに違いない。ベッドの上で寄りかかる志貴、その前でひざまずく様に身を
伏せながら賢明に主人の指に唾液を這わせる翡翠。自然と彼女の姿勢は胸をつ
いて、尻を上げるものになっていた。
まるで発情期の雌猫を思わせる格好。
そんな姿でありながらも、彼女の行為は真剣さを含んでおり、ただ「浅まし
い」という一言では片付けられない何かが確かに存在しているのも事実だ。
その罪に身を刻むような献身は、見るものに容易い嘲りを否定させるような
真摯さを含んでいた。
人差し指の次は、中指。そして親指、薬指、小指、手の平、手の甲、手首。
逆の手に移って再び人差し指―――という順序で、翡翠が懸命に志貴の手を舐
めまわす。唾液でベトベトになってしまった志貴の手からは、翡翠の口腔の生々
しい匂いが染み付く。
一通り、志貴の指を舐め終えた翡翠は、どこか恍惚としたような呆けた表情
で志貴を見上げる。項垂れた志貴は何も見下ろさない。
だが翡翠は構わずに、そのまま志貴へと身を寄せた。
ベッドの壁越しに寄りかかった身体の上に、自らを投げ出すように身を重ね
る。
志貴と翡翠の柔らかな髪の毛が、互いに擦れ合う。その僅かな触れ合いだけ
で、翡翠は短い声を漏らす。手を志貴の後ろに回して、重ねた身をさらに引き
寄せる。志貴の胸と、翡翠の胸が触れ合い、圧迫。
長い、長い吐息が翡翠から漏れた。
その吐息は、この一瞬を心待ちにしていたかのように熱く、艶を持っている。
喉の奥から僅かにかすれ出た声は、まるで啼いているかのよう。
互いに服を着ているとはいえ、その胸の感触は確かに伝わってきていた。翡
翠のひかえめながら柔らかな胸のふくらみに対して、志貴のそれは固く頼もし
い。自らの乳房が、志貴のそれに押し付けることでたわむ感触。
首筋が触れ、冷たい肌の感触がゾクゾクと背筋を駆け下りてゆく。
愛している人に覆いかぶさっているという感覚は翡翠を甘く酔わせていった。
そして、唾液まみれの志貴の手を再び翡翠の手が誘う。
雫を垂らす指先は、シーツや互いの衣服に染みを作ってしまったが、それを
咎めるものはこの場にはいない。闇の中、微かな灯火の明かりを受けた志貴の
指先が滑る艶を輝かせる。
志貴の指は誘われるまま、スカートの下の最奥の秘部へ。
意思を持たぬ指が、翡翠の意思で割れ目の中へと差し込まれる。
「んっ、ふぅぁぁっ!」
ここで、初めて翡翠が大きく声を啼かせた。
自らの指だけでは到達しなかった快感。それを最愛の、物言わぬ主人の指で
引き起こしている。唾液を纏った指が膣内の液と重なり、溶け合い、混ざり合
う。翡翠の手によって、ぷちゃ、という音を立てさせながら動く志貴の腕、そ
の先端。割れ目から零れ落ちてきた雫が志貴の手の平へと溜りを作ってゆく。
「ふぁ、ぁふ……あ、んっ」
体勢はさらに志貴へと寄りかかるようなものになっており、翡翠は志貴にそ
の身を擦り付けている。
小刻みに上下する翡翠。
服の衣擦れが激しくなり、摩擦が快感を加速させる。
それ以上に、志貴の胸を擦りあっているということが、翡翠の脳内を熱く、
激しくさせていた。整われたメイド服が乱れ、汗の雫を染み込んでゆく。
「志貴、さまぁぁ……ぅ、んぁ……気持ちいいです、気持ちいです、志貴さま
ぁ」
志貴の指はさらに深くまで進み、浅く、深くと律動を繰り返す。
自らの指でなく、志貴の指が膣を犯している、穢している、志貴が。
ずぶずぶと埋没してゆく志貴の指先。冷え切って吐息か雪のように白い、そ
の美しい指先は翡翠の内壁の熱を奪い、秘裂の感覚を麻痺させ、その奥の神経
を焼ききるくらいに燃え上がらせて、ぬめる蜜によって熱をまとってゆく。
包皮を纏った敏感な部分を擦り、さらに液を纏わせ転がすように指先を動か
す。
「んあ、ぁう……はぁ……はぁ。しき……さま」
熱っぽく虚ろな瞳が、天を仰ぐ。
そこには見下げる瞳もなく、月もなく、星もなく。
雪も降らずに、雲も覆わずに、ただただ無機質な天井が広がるだけ。
それに重なるは闇。
志貴を助けるには、この方法しかない。
相手と体液を交換することで、生命力を分け与える感応者―――翡翠と琥珀
の双子が有する能力を使うしかないのだ。
闇を瞳に映しつつ、翡翠は紡ぐ。
「んぁっ……ねぇ、さん……ごめんなさぃ」
ごめんなさい―――わたしはあなたが守った純潔をささげます。
この世界で一番大好きな人に。
懺悔するように、罪の刻印を読み取るように翡翠の胸の内が疼く。
最初はまだ小さかったその疼きが、やがて大きく広がってゆき、内側から捲
り返ってくるような堪らない痛みが走る。それを押さえようと志貴の胸へと必
死に摺り寄せるが、内側のそれはもどかしい引っ掻くような痛みをもたらした
まま。
一番の人にわたしをささげる。
だけど、彼にとってわたしは一番ではない。
ああ、これが罪の痛み。
だけど、本当の烙印はこれから。
翡翠の唾液の嚥下音が、水面のように重い室内へと響く。
一生懸命に志貴の腕を動かしていた指を離す。志貴の腕は、それこそ糸の切
れた人形のようにあっさりとベッドの上に。翡翠はそっと手を志貴の下腹部へ
と伸ばした。
その部分に触れると、僅かな逡巡。
弾かれたように指を引いた翡翠だったが、ややあって意を決したのか、志貴
のズボンを脱がしてゆく。ベルトを外し、下着を脱がし、半ばまで勃起した尖
塔を強張った面持ちで見つめる。
初めて見た男性器にさすがに緊張しているのだろう、志貴のそれを剥きだし
にしたまではよかったが、そこから先が動かない。動かそうと翡翠が思考して
も指が思っている以上に動いてくれないのだ。動かしたつもりでも、震えにし
かなっていない。
だが。
「ごめんなさい………」
それは、誰への謝罪だったのか。
その謝罪を一言すると、翡翠の震えが嘘のように止まる。彼女の指先はその
まま、志貴のペニスを撫でて、茎の部分をしごき始めた。
焦らされていたかのように、半勃ちだった志貴のそれが熱さを取り戻して、
さらに大きく、固く、天を衝く。やわらかな指先が亀頭を擦り、尿道口を指先
が撫で付ける。
その白く美しい指先を、つぷ、と穢す液体。
翡翠の指だけでは収まりきらないこわばり。その充血したシャフトを楽器で
も奏でるかのように鮮やかに上下してゆく指先。ぬめる腺液が、熱を帯びた翡
翠の手によって塗りたくられてゆく。
付け根から先端までをねっとりと絡み付いてくる翡翠の指先。
下半身では反応をしているのに、志貴の意思は戻りそうには無かった。生命
力の低下がよほど著しいのだろうか、翡翠は不安げに眉根を寄せる。
「しきさま……」
天を再び仰ぐ翡翠。
彼女の瞳は闇を映さない。
そこには決意のみ。
翡翠がそっと腰を上げて、身体を起こす。
自らの指で薄桃色の秘裂を開き、その真下のそそりたつ肉棒を見据える。
ゆっくりと、腰を落としてゆく。一気に貫くことへの恐怖感があったのかも
しれない。
開かれた割れ目と、充血した亀頭が軽く口付けるように触れ合う。
「んっ! ふぁっ……あっ」
とろりと垂れ落ちる翡翠の液。それを浴びながらも、大陰唇へと身を埋めよ
うとする志貴のペニス。軽い擦れ合いが、脳神経が快感で焼き切れてしまうよ
うな刺激をもたらす。
その刺激に感化されたのか、翡翠の胸の引っ掻きが再び湧き上がってきた。
内側から爪でゆっくりと引っ掻かれるような、長く、優しい痛み。
こんな、もどかしい痛みは彼女は我慢できない。
今すぐ、全てを放り出して痛みから逃げ出してしまいたいくらいだ。
しかし、翡翠は志貴を愛している。目の前の志貴が死にそうなのに、彼女が
逃げ出すなど出来るはずも無かった。
胸中で啼くように囁く、翡翠。
この痛みは、わたしへの罪。
それならば。
烙印の痛みで、この痛みを掻き消せばいい。
さらなる罪の痛みで。
もっと、この身を傷つければ。
胸の痛みも消えるだろう。
翡翠は、入り口で未だ大陰唇とこすれあっている亀頭を指で押さえつつ、そ
の腰を落とした。
深く、深く。
その身を脊柱から脳髄にまで貫くかのように、落とす、堕とす。
「いっ、んああああっ!!」
翡翠は、自らの内壁を掻き分けてゆく快感と、一気に純潔を貫く激痛に打ち
震え、啼き叫ぶ。予想以上の痛みは、霞がかかった脳内をクリアにして、鮮明
になった脳内をさらに真っ白に塗り替えてゆく。瞳の裏に光芒があふれ出すよ
うな、快感交じりの痛みに涙を零す。
痛みに耐え切れないようにも、悦びに身を響かせるようにも聞こえる、涼や
かで原始的なまでに純粋な啼き声。
腕をつき、一心不乱に腰を動かす翡翠。
その思考は何を考えているのか、涙交じりの笑顔を浮かべた彼女の顔から、
それは読み取れない。ただ、荒い息を吐きながら動く彼女は一つの言葉を何度
も繰り返し、紡ぐ。
固い翡翠の膣口は無理矢理にこじ開けられて、ペニスが何度も何度もその柔
肉を穿つ。
互いの触れ合いの間から零れ落ちてくるのは、透明な雫。
だが、それもやがては赤みがかかった朱の雫へと変化してゆく。
喘ぐ声が、啼き。
胸の罪の痛みが、掻き消され。
翡翠の膣に、烙印の痛みが刻み込まれる。
翡翠の紡ぐ言葉は一つ。
遠野秋葉の愛した人物を抱いてしまった罪悪感。
琥珀の守り通したものを、自ら破ってしまった痛み。
志貴の命を助けたいという―――言い訳を纏った、彼への愛。
胸の内で何度も謝りつつ。
もう、翡翠を縛り付ける枷が全て外れたことを悟る。
秋葉という存在も
姉との約束も。
志貴への愛を秘めることも。
何もかも。
全てを解き放って、翡翠は言葉を紡ぐ。
ただ一言を、永久に。
「志貴さま、愛しています……愛してます、愛してます愛してます愛してます
愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます………」
その一言を免罪符のように。
自らの純真な愛を、罪に堕とし。
彼女は大きく戦慄いた。
震える身が受けるのは、志貴のペニスから吐き出された白濁の液。
膣内を穢されながらも、翡翠は笑顔で涙を零し。
どろり、と隙間から漏れる白濁と赤、そして透明の入り混じった液体を肌に
感じながら。
彼女は啼いた。
自らの想いが伝えられたことに対しての。
歓喜か、罪か。
どちらにしろ、それは酷く純真なものには違いない。
冬の足音を耳にしながら、志貴は瞼を開ける。
瞳の裏側まで射し込むのではないかという鋭い陽光に、無理矢理に覚醒させ
られて身体を起こした。
今日は、起こされる前に起きることが出来た。
そのことに軽く満足し、志貴は口の端だけで笑う。
軽いノック。
志貴は入室を促すと、用意された衣服を受け取る。
やってきた彼女は笑顔で言った。
「おはようございます、志貴さん」
志貴は、彼女におはようと笑顔で答える。
そして、その背後にいる彼女にも一言。
「おはよう、翡翠」
「………………………」
答えは、無い。
翡翠があの晩に行った行為で、志貴は翌日にはすっかり生命力を取り戻した。
こうして、今朝起きていられるのも翡翠のおかげだろう。
だが、当の翡翠には感情の欠片はまるで存在していなかった。
あの晩に生きる最低限の生命力を残して、残りを全て志貴に分け与えた彼女
の成れの果てが今の姿だ。感情を欠落し、自らの意思を喪失し、何も感じない、
何も話さない、ただ相手の為すがままに動くだけの人形となってしまった翡翠。
全てを与えきってしまった者の姿が今の彼女だ。
志貴は穏やかに笑って、彼女の手を取った。
拒絶は―――無い。
「志貴さん………秋葉様のお食事もありますので……」
「うん……解ってる……すぐ、すぐに行くよ」
冬の足音が鳴り響く。
屋敷の中へと反響するそれは鋭く凍えた空気の音。
屋敷の闇に深く、尖って響き渡り、冷たい歌を奏でる。
誰かへの愛を、終われないがために、己を終わらせてしまった者達へと。
一人の少年の命が潰えようとしたとき。
少女は命を賭けて少年の命を救った。
その身に、罪の烙印を刻み。
刻まれてボロボロになって倒れ伏す。
愛している。
少女は少年を心からそう思っていた。
それは、ひどく純真で、穢れの無い愛。
だが、それがもたらしたものは。
悲劇でしかない。
「翡翠―――笑って」
感情の欠落した少女は、少年に言われるがままにその表情を生み出す。
本当に、穢れの無い微笑みを。
<[Requiem for.....]BAD END>
「後書・本当にごめんなさい」
「変化球」「純愛」「翡翠」「悲劇」
これらをキーワードにして今回の作品は生まれました。
いわゆる、秋葉ノーマルエンド後のお話というわけですが、なんだかバッド
エンドくさい物語となってしまいました。ええ、そうですとも。そのつもりで
書きましたとも(開き直りかよ・・・おい)。
純愛な翡翠、がコンセプトの今回としては翡翠が純愛ならいいんです。それ
が例え罪に身を刻む行為だとしても、翡翠は純愛故に志貴を助けたのですから
(いい具合に、開き直ってやがる、自分)。
ただ、純愛が必ずしも成就するとは限らない、純愛は時に悲劇を呼ぶ、とい
うことを考えて変化球な作品に仕上げてしまいました。今の自分たちを終わら
せられないがために、全てが終わってしまい、それこそ死ぬまで終焉に生き続
ける彼ら。人形が二人。理性をなくした妹が一人。終わらせられなかった少年
が一人。白い吐息は闇に飲み込まれてしまいました―――なんてこったい。
こんな悲劇で、本当にすいませんでした。
次はもっとストレートに純愛な物語を書きますので!
だから、今回は見逃してください。
ではでは
頑張ったけど駄目だった、10=8 01でした。
BGM:白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター(the pillows)
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