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『まずはそこからはじめよう』
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「やばいな、また秋葉に何て言われるか…」
日曜日だからと十一時まで寝ていた志貴は、秋葉への言い訳を考えながら居間
のドアを開いた。
しかし、なにやら様子がいつもと違う。
椅子に腰掛けて、冷ややかな視線を向けてくるはずの秋葉は、ワインレッドの
スーツを着て琥珀さんにネクタイを締めてもらっていた。
秋葉の様子に、自分の身が安全だと悟った志貴は声をかける。
「秋葉、出かけるのか?」
丁度ネクタイを締め終わった秋葉がこちらを振り向く。
「はい。どうしても外せない遠野グループの会合があるので。明日の朝には戻
りますから」
ああ…、忘れていた。秋葉って、遠野家グループの重役なんだよな。
再開した時にあった険がすっかり取れて、「可愛いけど口喧しい妹」になっち
ゃってるから忘れてたよ。
「そういう訳なので、兄さん。身の回りの雑務に琥珀を連れて行きますが、構
いませんか?」
そう言えば琥珀さんも、いつもの割烹着じゃなくて余所行きの和装だ。
「それは構わないよ。秋葉も大変だな、気を付けて行けよ」
「私の事より、兄さんの方が心配です。今日も日曜だからといって何時まで寝
て――――」
いつもと違うのは格好だけで、中身は変わってないな。
秋葉の小言を聞き流しながら苦笑する。
そして、玄関の前に横付けされた、車体の長い黒光りする車で出て行った。
明日の朝までは翡翠と二人きりか――――
そんな事を思ったその日の午後。
ごろり。志貴は自室のベッドに寝転び、ふてくされる。
実は、ちょっと期待していたのだ。
翡翠と二人きり。
こんな状況は、翡翠と結ばれたあの夜から無かったから。
そう。この状況で期待しない方がおかしい。
そんな期待を胸に、甘いシュチュエーションを求めて翡翠に近寄るが、忙しそ
うに働く翡翠の様子に、すごすごと部屋に引き返すしかなかった。
こんな絶好の機会なのに、何も無い…
少しくらい落ち込んでもいいだろう。
部屋でふてくされていると、翡翠が洗濯済みの服を持ってきた。
「今度こそ!」と思うものの、
「それでは、私は仕事がありますので失礼します」
翡翠は淡々と事務的に言うと、他に話すことも無く部屋を出ていく。
「はぁ…」
翡翠が出て行った後、一人で盛り上がっていた自分が馬鹿馬鹿しくなって、溜
息をつく。
「翡翠がメイドの姿勢を崩さないのって、秋葉や琥珀さんがの目を気にしてる
んだとばかり思ってたけど。もしかして俺の事、何とも思っていないのかなぁ」
そう呟きながら、二分程前に部屋に居た翡翠を思い出す。
「あれ?」
記憶の中の翡翠に、妙な違和感を感じる志貴。
翡翠の無表情ぶりはいつもの事だが、今日はいつにも増して表情が硬い気がす
る。
そういえば、顔色も悪かった様な気がする。
何かあったんだろうか…
体調が悪いのか?
もしかして、病気なのを隠してるんじゃ無いだろうな。
あー、考えれば考えるほど心配になってきた。
募る不安に耐えかねて、志貴は部屋を出て翡翠を探す。
「確か仕事があるって言ってたよな」
二階に気配が無いのを確認して、一階へと降りる。
「あ、翡翠…」
志貴が階段の下から三番目に達した時、
何か思いつめた様子で志貴の目の前を横切る翡翠。
すぐ横に居た志貴には気が付かず、そのまま通り過ぎる。
志貴の前を通過した翡翠の横顔が、いつに無く真剣な表情なのが気にかかる。
幸いこちらに気が付いていないので、そのまま後を尾ける。
翡翠の進行方向にあるのは――――
ああ、なるほど。神妙な表情はそのせいか。
翡翠にとっては一大事だからな。
前を歩く翡翠の真剣な顔を思い浮かべて、自然と唇の端が持ち上がる。
そして、そんなに真剣に思ってくれた事に、なんだか幸せな気分になる。
そして俺は、けなげに頑張る翡翠を邪魔しない様、少し離れた所で見守ること
にした。
目的地に着いた翡翠は一頻り考えた後、メイド服の袖を捲くる。
「よし」
翡翠には珍しく掛け声をかけると、水道の蛇口を捻り手を洗う。
次に冷蔵庫を開いて食材を取り出す。
そして戸棚から調理用具を、食材と同じように台の上に並べる
てきぱきと準備する翡翠の様子は普段からキッチンを使っているように見える。
あっという間に、台の上が埋め尽くされる。
じゃがいも、にんじん、牛肉、しらたき、さやえんどう
と、定番の食材が並び、献立が肉じゃがである事が見て取れる。
準備を終えた翡翠は、ポケットからピンクの紙片を取り出す。
きれいに畳まれた紙を広げて、穴があくほど凝視してから食材の横に置く。
どうやらあれは琥珀さんの書いたレシピらしい。
今度は食材を置いた台を見回して、大きく息を吸うと包丁を手に取る。
そして、ジャガイモの皮を剥き始める。
穴が開くかと思うほど、じゃがいもを睨み付けながら剥く。
食べる所よりも剥かれた皮の方が多くなる予想は、見事に外れた。
一回で切る量が小さいけど、皮はちゃんと薄く剥かれてる。
多少危なっかしい手つきだが、思ったよりできるみたいだ。
しかし、一個のじゃがいもを剥くのに何十分かかってるんだ…
なんとかじゃがいもの皮を剥き終わると、今度はにんじんを手に取る。
今度はある程度切ってから皮を剥こうというのだろう。まな板に置いて包丁を
立てる。
ぐぐっ、
半分ほど包丁が入ったところで、にんじんの固さと翡翠の腕力が拮抗する。
「んん〜っ」
なんとか切ろうと、にんじんを押さえる左手と包丁を握る右手に力が入る。
見ているこっちの手も、いつの間にか握りこぶしをつくっている。
手の平に汗まで掻いて…
「きゃっ」
「ごとり」とにんじんの切断される音と同時に、悲鳴があがる。
左手の指を右手で押さえながら、胸元に引き寄せる翡翠。
「翡翠っ。大丈夫か!?」
急いで駆け寄って翡翠の右手を掴んで、ぐるりと翡翠の指を凝視すると、ほっ
と胸を撫で下ろす。
爪の先端と指の皮がほんの少しだけ削れていただけだ。
「よかった… 血は出てないみたいだな」
そこで初めて顔を上げると、
目を丸くした翡翠の顔があった。
「あの、志貴さま…?」
うわっ、こんなタイミングで出たら覗いてた事がばればれだ。
「見てたんですか」
「あ、いや、その… ごめん。見てた」
「姉さんが居ないのですから、私がお食事の用意をと思ったのですが…
申し訳ありません志貴さま。やはり、私には無理でした。今からケータリン
グに連絡しますから今夜はそちらでご夕食を…」
申し訳なさそうに言う翡翠の肩をぽんとたたく。
「いいさ。料理が苦手なのに、頑張って作ろうと思ってくれて、すごく嬉しか
ったんだよ」
そう言うとさっと自分の袖を捲くると手を洗う。
「じゃあ手伝うから、はやく作っちゃおう」
「そっ、そんな。志貴さま…」
翡翠が制止する間も無く志貴は包丁を手に取る。
「刃物の扱いにはちょっと自信があるんだ」
戸惑い気味の翡翠にえんどうのスジを取ることを指示すると、自分はたまねぎ
の皮を剥く。
とん、とん
たまねぎの上と下をカットすると、見る間に皮が剥かれる。
「ほら翡翠。ぼーっとしてないでじゃがいもを洗って」
「あ、はい」
志貴の手元に見入っていた翡翠は、我に返ると手に持ったえんどうのスジと格
闘する。
―――――― 一時間後 ――――――
志貴の座るテーブルの前には、ほかほかと湯気をたてる肉じゃがの皿が置かれ
ている。
ごはんに味噌汁、そして肉じゃが。
少々質素だが、そんな事は問題じゃない。
あの翡翠が作ってくれたのだから…
ふと、後を見ると、いつもの様に翡翠が控えている。
よし。
箸に伸ばしかけた手を止めて立ち上がり、でかいテーブルに疎らに並んでる椅
子を一つ持ってくると自分の椅子の横に置く。
「じゃ、翡翠も一緒に食べよう」
そう言うと、翡翠は即座に首を振る。
「いえ、私は…」
「いいから、ほらここ」
自分の横に置いた椅子を、ぽんぽんと叩きながら翡翠に座るよう促す。
しばらく逡巡していたが、一向に態度を変えない志貴に負けて、真っ赤になっ
て隣に座った。
「よし。では、いただきます」
「(小さな声で)いただきます」
なんとか翡翠を横に座らせ食事を開始したが、ちらちらと横目で様子を窺って
いる。
(なんか、食べにくいなぁ…)
しかも、志貴の様子が気になっていて、箸が進んでいない。
このままだと、志貴が食べ終わるまで自分の膳には殆ど手をつけそうも無い。
「翡翠。食べないと冷めちゃうよ」
業を煮やした志貴の言葉に、あわてて自分の肉じゃがの皿に箸を伸ばす。
「あっ」
あわてて掴んだ箸から、じゃがいもが逃げる様に転がり落ちる。
「ぷっ、あははははは」
とうとうたまらず笑い出す。
「し、志貴さま…」
「翡翠。そんなにかしこまらなくても、普通に食べればいいよ」
「でも、私などが食事をご一緒するなど…」
ひょい
志貴が翡翠の皿からじゃがいもを摘む。
「あ…」
どうリアクションとって良いか戸惑う翡翠の前に、その箸を突き出す。
「翡翠。あーん」
「…しっ、志貴さま、自分で食べられますからっ(っ赤)」
「翡翠は俺と食事するのに気負いすぎだよ。一回恥ずかしい思いをしておけば
後が楽になるよ」
「ですが…」
「ほら早く。俺だって恥ずかしいんだから」
「あーん」
いつまで経っても目の前から動こうとしないじゃがいもに、観念して口を開い
た。
「あーん」
ぱくっ
「…美味しいです」
なにかくすぐったい感じ。
しかしこれで、固かった翡翠の表情もいくばくか柔らかくなる。
かなり恥ずかしかったけど、これで翡翠も普通に食事が――――
いきなり目の前に赤い塗り箸が差し出される。
その端に挟まっている、じゃがいも。
「志貴さま。あーん」
「ひ、翡翠っ」
「あーんです。志貴さま」
自分もやった手前、これは食べなければならないだろう。
今度は志貴の方が真っ赤になりながら口を開ける。
「お返しです」
くすくすと笑う翡翠。
もぐもぐと咀嚼しながら、恥ずかしさで顔が火照るのを感じる。
これ、やられるとものすごく恥ずかしいな。
翡翠もかなり恥ずかしかったようで、それ以上はやらなかった。
かちゃかちゃ。
皿と皿の触れ合う音。
皿を洗う翡翠のメイド服から下がるリボンがゆれるのを眺める志貴。
今度も手伝うと言ったのに、調理はともかく皿洗いは自分がすると言って、頑
として譲らなかったのだ。
翡翠が皿をスポンジで擦る度に、腰で結んだエプロンリボンの端がゆらゆらと
揺れる。
「きゃっ」
後ろから翡翠の身体を抱きしめる。
「志貴さま、洗い物が…」
「ごめん翡翠。もう少し、このまま居させて」
抱きしめた翡翠の体は、思っていたよりも細く感じる。
「このまま力を入れたら折れてしまうのではないか」そんな事を考えるほどに。
聞こえるのは蛇口から流れ出る水音と、心臓の鼓動。
たまらなくなって、翡翠を抱きしめる手に力を込める。
翡翠の存在を確かめるように、深く、深く、抱きしめる。
―――足りない。
充足していた温もりは、次第に小さくなり。
愛しさが呼び水となって、翡翠を求める気持ちが大きくなる。
渇きにも似た感覚。
「もっと、翡翠の事を感じたい」
「はい」
抱きしめた手に翡翠の手が重ねられる。
洗い物で濡れていた手は、長い抱擁の間にすっかり乾いている。
志貴は腕を緩め、肩越しに覗き込む様にして翡翠と唇を重ねる。
「んん、はぁ…」
キスを続ける志貴の手が、翡翠のエプロンの内側に入り込む。
円を描く様に片方ずつ胸を触る。
「んっ」
触れ合った唇から、翡翠の体がぴくぴくと反応するのが判る。
翡翠の反応を堪能しながら、翡翠の体を求め、蹂躙する。
なかば、引き千切る様にしてボタンを外した服の隙間から、手を滑り込ませる。
身を捩じらせる翡翠の唇を吸って、動きを封じながら直に胸の弾力を楽しむ。
誰も居ない屋敷。
いつも必要以上に触れてこない翡翠に触れていられる。
その事が、志貴をより大胆にさせる。
「ぷふぁ…」
やっと開放した翡翠の唇との間にできた唾液の糸が、たわんでちぎれる。
「志貴さま、寝室に…」
シャツの中に入り込んだ志貴の攻めに声を震わせながら、言う。
しかし、そんな時間さえ惜しいと言わんばかりに、スカートの上から翡翠の敏
感な所に手を差し入れる。
翡翠がとっさに閉じた膝を割って、荒々しく弄る。
じわり、
スカートごと押し付けた指が、布越しに翡翠から出た液体を感じる。
ぎゅっ、ぎゅっ
さらに人差し指と中指の腹で何度も押すと、スカートに染みが広がる。
「まるで洪水だよ、翡翠。感じてくれたんだね」
胸の辺りでスカートの端を握らせて、
「離しちゃだめだよ」
と言うと、自分はしゃがみ込んで翡翠の太腿に両手の指を這わせ、すでに滴る
ほどに濡れた下着に手をかける。
人差し指を肌と布の間に入れて、もじもじと擦り合う膝の上まで引き下ろす。
とろりとした粘液が、翡翠と下着の間で糸を引く。
「手を離しちゃだめだよ」
再度釘を刺す志貴。
翡翠は恥ずかしさでどうにかなりそうなのを、スカートを握り締めて必死に耐
える。
ふっ
志貴が息を吹きかける。
肌を撫でる空気は、指で触れるよりも微かな快感を与える。
「んんっ、くぅん」
感じるギリギリの快感のもどかしさに、声を漏らす。
とろり
あふれ出た粘液が、膝で止まっている下着に落ちて染み込む。
「垂れてきたよ翡翠。翡翠のここはもっとして欲しいって言ってるよ」
かぁぁぁ
恥ずかしさに耐えられなくなったのか、掴んでいたスカートで顔を覆う。
しかし、その行為は薄暗かったスカートの中に光を入れることに…
てらてらと光を反射する滴りに、ドキリとさせられる。
時折震える肢体に、淫猥に光を反射する潤い。
たまらない。頭がどうにかなってしまいそうだ。
花の蜜に誘われる虫の様に、翡翠に口付けをする。
「はうっ。ひゃうん」
いきなりの刺激に、顔まで持ち上げていたスカートを噛んで、声を殺す。
「うくっ、んんっん」
快感に流されない様に耐える仕草が、志貴にはとても可愛く感じられた。
そして、その結果。
志貴の行為はエスカレートする。
指で開いて奥まで舌を伸ばし、掻き出す様に動かす。
「ひうっ、くぅんっ」
志貴の舌が動くと翡翠の体が跳ね、奥から粘液が溢れ出てくる。
「はふぅ」
翡翠をたっぷりと舐ったあと、息継ぎのために口を離す。
その息がかかり、翡翠の体は小刻みにふるえる。
翡翠も噛んでいたスカートを口から離す。
じっとりと唾液が染み込んで、スカートの裾が濃い色に変色している。
口を開いて荒い息をする翡翠。
志貴の唇は翡翠の粘液でべとべとになり、妖しい光沢を放つ。
それを、ぺろりと舌なめずりして舐め取る。
「翡翠。そろそろ、いいかな」
問いかけに、潤んだ瞳を向ける翡翠。
「志貴さまが、なさりたいのなら…」
「それは駄目だよ。こっちだけがその気になるのは翡翠に悪いからね」
立ち上がって翡翠の身体を引き寄せると、翡翠の耳を甘噛みしながら囁く。
「ね、翡翠はどうなの?」
「はうぅぅん… 私は志貴さま、さえ、よろしければ…」
あくまでこちらを立てる姿勢はメイドとしては立派だが、この場合はそんな立
場なんか忘れて欲しかった。
よし。それなら―――
「いいよ。翡翠がその気になるまで、たっぷり弄ってあげるから」
そう言って、さんざん舌で弄んだ所に指を這わせる。
くちゅり。
中指を第一関節まで入れては抜き。
人差し指と薬指は外周を撫でるように擦る。
「ひんっ、はうぅん」
すっかり熱くなった身体に微弱な刺激。
翡翠の切なげな嬌声には、半分泣き声が混じってきた。
「ああ、こん、な… 志貴さま…」
耐え切れなくなった翡翠は、目に涙を浮かべながらとうとうお願いの言葉を口
にした。
「お願い、します。翡翠に、して…ください…」
「やっと言ってくれた。 翡翠が頑固だからこんなになっちゃったんだよ」
ズボンのファスナーを開くと、はちきれんばかりに充血したのが下着を押しの
けて飛び出す。
「ほら、触ってみて」
びくびくと脈打つソレを翡翠に握らせる。
「熱い…」
柔らかい翡翠の手に包まれて、今度は志貴が嬌声を噛み殺した。
「くっ…」
後ろを向かせてシンクに手をつかせると、スカートを捲り上げる。
にゅるにゅるになった翡翠の入口に擦り付けて、自分にも潤滑液を付けると、
ゆっくりと翡翠の中に進入する。
「やぁっ、はあぁぁぁ…」
「くぅっ…」
「「熱い…」」
翡翠の内側の熱さに、意識が吹き飛ぶ。
あれだけ色々な思考をめぐらせ翡翠を堪能しようとした事も、どうでもよくな
っていた。
ただ、体の欲するまま、翡翠に突き入れる。
シンクに手をついて前屈みになった翡翠に覆い被さり、
メイド服のボタンを引きちぎって、貪る様に柔らかなふくらみを揉みしだく。
破れ、大きく広がった襟からのぞくうなじに舌を這わせ、肩を甘噛みする。
そして、その間も休みなく腰を動かす。
「やぁっ、ああっ、あっ、志貴さ、ま ――――」
翡翠のことを焦らしたつもりが、自分の方が焦っていたみたいだ。
自分でも、あの後はよく覚えてない。
まさに、翡翠に溺れてたという表現がぴったりくる。
翡翠の可愛い鳴き声と、どろどろに溶かされそうな中の熱さに、夢中で貪って
いた。
「志貴さまは、いじわるです」
事の後、ボタンの引き千切れた服の胸元を両側から手で引き寄せて肌を隠しな
がら、志貴を攻める。
「手荒にしてごめんよ。翡翠の乱れた様子につい興奮して」
台所で襲いかかった負い目があるせいか、平謝りになる。
「あんな、自分から『おねだり』させられるなんて…」
『おねだり』のあたりから、尻窄まりに声が小さくなる。よほど恥ずかしいの
だろう。
「でもさ、翡翠。慎み深いのもいいけど、翡翠からはあんまり俺に触れてこな
いからさ、ちょっと強引にしないと翡翠に触れられないし…。あ、もしかして、
俺の事飽きちゃったの?」
「いえ、そういう訳では…」
「それとも翡翠は俺に触れたくない?」
「そんな事はありません!」
「俺は翡翠にもっと触れたいけど、翡翠は?」
「それは、その、私も志貴さまに、触れたい、です」
みるみる翡翠の顔が紅潮してゆく。
「それなら、今度は翡翠からも触れてくれると嬉しいな」
志貴の言葉に、先の行為を思い出して頭を振る。
「志貴さま。私にはさっきみたいなのは、その、無理です」
「あ、いや、さっきのはちょっとやり過ぎだったからさ、まずはこーゆーのか
ら、ね」
静かに目を閉じた志貴に、
「はい」
小さく頷くと、はにかみながら
キスをした。
―――― 了 ――――
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