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在るべきものが欠落した非日常は、いつしか日常へと変わる。
心はピースの欠けたジグソーパズル。
どんなに探しても欠けたピースは見つからない。
埋めようとすればするほど、他のピースも綻び無くなっていく。
私には探すことは出来ず、ただ待つことしか出来ない。
再び、今の日常を変えるような、“非日常”に出会うまでは……。
日常の終わり、非日常の始まり…
稀鱗
長く感じた冬休みが終わりに差し掛かっていました。
時は空気と同じように冷えて、ゆっくりとした流動を繰り返していました。
この数日間は特に遅く感じました。
私は過去を封印したつもりでした。
でもそれは、ただの口実に過ぎません。
過去を忘れることは出来ません。
心に受けた傷、心にあいた穴は埋まることはありません。
それは、私も、秋葉様も、姉さんも同じです。
もしかすると、志貴さまにかかわった人々、全てかもしれません。
だから私は、志貴さまを忘れることなんて出来ません。
/
「秋葉さま、今度お帰りになられるのはいつになられますか。」
姉の琥珀が秋葉に尋ねる。秋葉様は私たちに背を向けて、
「次の長期休暇まで帰って来るつもりは無いわ。ここにいても、余計に辛く
なるだけだし。二人にも暇を出してあげたいけど、ここに誰もいないわけには
いかないし。私が戻って来るまでの間、屋敷のことはお願いするわ。」
そう言い残すと、秋葉様は車に乗り込みました。
『いってらっしゃいませ。』
私は姉さんと一緒に頭を下げ、秋葉様をお見送りしました。
「また、二人になっちゃったね、翡翠ちゃん。」
「姉さん……。」
私たちは秋葉様が乗ったお車が見えなくなるとゆっくりと門を閉め、屋敷へ
と戻りました。
それは、全てが欠落した日常へと戻る道標でした。
/
あれからどれだけ経ったのでしょう。志貴さまがいなくなられてから、私た
ちの日常は不思議なほどに正常を取り戻しました。それは、志貴さまという人
物が初めから存在していなかったと思わせるような“日常”でした。
秋葉様、姉さん共に、あの日以来志貴さまのことをあまり口にすることはあり
ませんでした。
私には分かっていました。秋葉様も、姉さんも志貴さまのことで心を痛めてい
ることを。
そして、必死で志貴さまがもう還って来ない事を否定しようとしていました。
例外も無く、私も否定しようとしています。
しかし、私にそれは出来ません。私は毎日、志貴さまの存在の欠如を感じられ
る場所へと足を運ぶのですから。
今朝も私はそこで志貴さまに目覚めを告げました。
それは、志貴さまがいなくなった日からもずっと続けていること。いつか、志
貴さまが私たちの気づかないうちにこのベッドへ戻られて、いつものように優
しい寝顔をされて、何度も起こしてやっと起きられる、私はそんな“非日常”
を望んでいます。
しかし、それは奇跡と呼ばれる現象が起こる以上に確率の低いこと。
それでも、私は待ち続けています。
私の愛したたった一人のヒト…。
/
「翡翠ちゃん、私はお庭の掃除をしているから。翡翠ちゃんは屋敷の中をお
願い。」
「はい、分かりました。姉さん。」
ほんの少し言葉を交わしただけで、私たちはそれぞれの持ち場へと行きます。
屋敷の中に入って私は各部屋の片付け、シーツの取り替え、廊下の掃除をし
ます。それが終わると、最後に取っておいた仕事を終わらせるために、私は志
貴さまの部屋に行きます。主のいないベッドのシーツを取り替え、ベッドメイ
クをし、部屋を掃除して私の仕事は終わります。
そして、いつものように私は志貴さまのベッドに降り注ぐ日だまりの中に入
ります。
私にとって、許されているたった一つの楽しみ。
温かい日の光、それはまるで志貴さまに抱いていただいているような温かさ
があります。
日の光に抱かれながら、私はそっと目を閉じました。
やがて、正午をまわると、私は姉さんと食事をとります。
そして、手持ち無沙汰あの離れへと向かいます。
片付けと言う名目の暇つぶしを行い、私は部屋へと戻ります。
そして、夕方になると、その日の三度目の二人きりの食事をとります。。
部屋に戻り、明日こそ、奇跡が起こることを信じて、私は眠りにつきます…
…。
――――――
私はあの日、生きてきた中で一番の絶望をこの身に受けました。それは、あ
の人が私たちの前から消えてしまったこと。志貴さまという私の心の拠り所を
失った日でもありました。
私は、ただただ泣き崩れるしかありませんでした……。
私は志貴さまが秋葉様を追った後を追いました。そして、お二人ともあの森
へと入っていきました。紅葉に染まる紅き森、忌まわしい過去を内包し、今な
おその過去の影を落とし続ける森の奥で、何かが倒れるような音がしました。
それは、私があの広場に来たときでした。
最初は何が起こっていたのか分かりませんでした。
しかし、何かあってはと、音のした方向へと私は歩いて行きました。
するとそこには、秋葉様が倒れていました。
私はすぐに駆け寄り、秋葉様に声をかけました。
「秋葉様、秋葉様。」
私が呼びかけると秋葉様はうっすらと目を開けました。
「秋葉様、お怪我はありませんか?」
「翡翠…?私は…一体?」
秋葉様はぼうとした表情で私を見つめていました。
そして、急に我に帰ったように、志貴さまを呼びました。
「兄さん…兄さん!」
秋葉様は狂ったかのように志貴さまを呼びつづけました。
「翡翠、兄さんは?兄さんはどこに行ったの。」
秋葉様の質問に私はこう答えました。
「私がここに来た時には、秋葉様しかおられませんでしたが…。」
秋葉様はゆっくりと立ち上がりました。
そして、何かを確認するかのように目を閉じました。
しばらくして、秋葉様はこう呟きました。
「兄さん、兄さんは返してくれたのですね。本当に…身勝手な…」
私には秋葉様の言葉を理解することは出来ませんでした。
「秋葉様、返してくれたと言うのはどういうことですか。」
私はつい、秋葉様に聞いてしまいました。すると、秋葉様はこう答えました。
「翡翠、兄さんは私に力を返してくれたの。いえ、命、と言った方が分かりや
すいかしら。兄さんが四季に殺されたあの日、私は力に目覚め、兄さんに命を
半分与えた。だから兄さんは死なずに済んだ。でも、それは、私にとっては致
命的なことだったの。自らの力を制御できなくなって、遠野寄りに傾いてしま
った。それは、いつも身体に重い枷を掛けられているよう…だった…。」
秋葉様はそこまで話すと、溜息をつきました
声が震えて、眼には涙が浮かんでいました。
「だけど、今は違う。もう…重い枷は背負ってはいな…い。それは、兄さんが
死んだことを意味しているの…。私の兄さん…はもう…いない。いないのよ!」
秋葉様は堰を切ったように泣き始めました。それは、私にとっても初めて見る
お姿でした。秋葉様は、私にしがみ付いて泣きつづけました。
そして、秋葉様が悲しむ姿を見て志貴さまがいなくなったことを理解しました。
頭では分かっていましたが、やはり割り切れるものではありませんでした。
その日の夜、私は部屋で泣きつづけていました。
そして、いつしか私は眠りについてしまいました。
/
「翡翠ちゃん……………翡翠ちゃん…。」
私が目を覚ますと、そこは志貴さまのベッドの上でした。
「あ、姉さん…。」
「翡翠ちゃん。魘されていたようだけど…大丈夫?」
姉さんはそう聞いてきました。
私はあることに気がつきました。
……志貴さまのベッドが濡れていました。
それは、私の眼から流れ出た涙だと、気づくのにはそう時間はかかりませんで
した。
そんな私を見て姉さんは、優しく抱きしめてくれました。
「翡翠ちゃん、志貴さんの事を思い出していたのね。顔を見たら分かるわ。」
「姉さんは……姉さんは辛くは無いんですか。今まで傍で笑っていた人が、急
にいなくなって。」
私は姉さんについあたってしまいました。姉さんは、
「何も、翡翠ちゃんだけが辛いわけじゃないのよ。秋葉様も私も…本当は、泣
きたいの。でも、それを志貴さんが望んでいるのかって考えると。絶対に違う
と思う。志貴さんは秋葉様に幸せになって欲しかった。だから、志貴さんは…。
それに志貴さんは、私たちにも幸せになって欲しいと思っていたと思うの。」
と言って私を慰めてくれました。それだけではなく、姉さんは、私を押し倒し
て、
「ね、姉さん。」
「翡翠ちゃん、今だけ志貴さんのことを忘れさせてあげる。」
そう言って姉さんは私の唇を塞ぎました。
姉さんの唾液が流れ込み、私はそれを嚥下していきました。
姉さんの舌が、私の口内を犯していきます。無意識に私の舌が姉さんの舌を追
いました。
姉さんは吸い付くように唇を重ね、そして、舌を絡めてきます。
じゅるじゅる、と唾液を吸いあげる音が部屋の中に響きます。
その音に、私の理性は少しずつ崩れていきました。
「翡翠ちゃん、服、取るね。」
姉さんはそう言うと私のメイド服を手際よく脱がしていきます。すぐに、私は
下着だけの姿になりました。姉さんも、着ている着物を脱いでいきました。着
物を脱ぎ、一糸纏わぬ、生まれたままの姿になった姉さんに私の視線は釘付け
になりました。
「翡翠ちゃん…可愛い。」
「はぁっ、………ね、姉さん…。」
ショーツの上から姉さんが私の秘部を擦りあげました。私は、腰を浮かし必死
に逃げようとしましたが、姉さんの愛撫に私は溺れていきました。
やがて、じっとりとショーツは濡れ、染みをつくって行きます。溢れ出た愛液
がショーツに染みを作るだけにはとどまらず、志貴さまのベッドにも染みをつ
くって行きます。
「だめ、姉さん……。私、もう、洩れちゃう……。」
私の声に姉さんは子悪魔みたいな笑みを浮かべ、ショーツの中に手をいれてさ
らに激しく愛撫をしてきました。
「姉さん、だめ、本当に…洩れ…ちゃう……い、いやぁぁぁぁ……。」
「翡翠ちゃん……いっちゃってもいいよ……。」
姉さんが指を私の秘部に根元まで差し込んだ時、
しゃぁぁぁぁぁぁぁ…………………
と、音が聞こえるほどに出してしまいました。秘部よりでた排泄物が志貴さま
のベッドを汚していきます。
私は、その背徳感に酔っていきました。自分の愛する主人のベッドの上で洩ら
し、それが快感へと変わっていきました。
「翡翠ちゃん。いっぱい、だしたね……。」
姉さんは濡れたショーツを脱がし、秘部を押し当ててきました。
「ん、あ……、あああああ……」
熱く火照った秘部と秘部が擦れ合う感触。その感触と快感が私の頭の中を虚無
へと還そうとしました。
「あ、あん、………ん、ああぁぁぁ……。」
いつしか私も姉さんの秘部へと擦りつけるようになってきました。
それは、志貴さまと一つになったような感覚。そう感じ、自らの意思で求めつ
づけました。
それが、私が快感に溺れ、志貴さまを忘れると言う愚行を封じるためのたった
一つの方法だと思ったからです。
「翡翠ちゃん…、ひ…すいちゃ…ん……。」
姉さんは私の名前を呼びつづけます。
「志貴……さま、志貴さまぁッ。」
私は姉さんではなく、志貴さまの名前を叫んでいました。
「ひ、翡翠ちゃん……あ、あああぁぁぁぁぁ……。」
「志貴さまぁッ……。」
絶頂を迎え、私の意識は揺らいでいきました。
意識が遠退き、暗闇へと落ちていくのがはっきりと分かりました。
それが、姉さんの薬のせいだと気づいたのは、意識が途切れる寸前でした。
姉さんは……私の心を癒そうと、いつも傍で笑いかけてくれました。
私にとってその笑顔は、心を癒してくれました。
その反面、姉さんの笑顔で笑いかけてくれた志貴さまのことをいつも思い出
してしまうのです。
――――――――――――
窓から差し込む光で私は目を覚ましました。
冷たい空気が、肌を刺します。またいつもと変わらぬ、“日常”が始まるの
かと思うと、私の身体と心は重くなります。その身体と心に、潤滑油を点すよ
うに「今日こそは志貴さまがお戻りになられているはず…。」と心の中で言い
聞かせます。
私はベッドから降り、メイド服という枷に身を包みます。
そして、朝一番に志貴さまの部屋へと向かいます。
コンコン
ドアをノックし、開けて中に入りました。
「志貴さま、おはようございます。」
いつもと変わらない台詞を繰り返します。
二度と聞くことの無い言葉。その言葉を聞きたいが故に私は毎日ここへきま
す。
しかし、あまりにも繰り返し過ぎたのか、それとも、言葉が返ってこない事
が分かっていたのか、私はすぐに後を向き、部屋を出ようとしました。
「おはよう、翡翠。」
私は、驚き立ち止まりました。
その時は、私が志貴さまを思う故に幻聴が聞こえたのだと思いました。
しかし、
「どうしたんだ、翡翠、後ろを向いたりして。」
確かに聞こえました。志貴さまの声。
私はゆっくりと振り向きました。そして、ベッドへと視線を移しました。
そこには、待ち焦がれたヒトが半身を起こし、こちらを見ていました。
いつもと変わらぬ顔立ち、優しい笑顔、済んだ瞳。それは、以前と全く変わ
っていませんでした。
「し、志貴…さま…。」
「ん、翡翠。ただいま…。」
眼が潤んで志貴さまの姿が、見えなくなりました。
声が震えているのが、私自身はっきりと分かりました。
「うっ、うわああああ……、志貴さま、志貴さま、志貴さま、志貴さま…。」
私は感情を抑えきれず、志貴さまに抱きつきました。
この時は今までの辛いことを何もかも忘れてしまいました。
私は志貴さまの熱、鼓動全てを身体で感じていました。
志貴さまは何も言わず、私の頭を優しく撫でてくれました。
「ごめんな、翡翠。寂しい思いをさせて。秋葉や、琥珀さんにも謝らなきゃ
な。」
志貴さまの胸に顔を埋め、私は嬉しさのあまり泣き続けました。
私は落ち着きを取り戻してから志貴さまに、
「もう、何処にも行かないでください。志貴さま、私は志貴さまのためだけ
に存在しているのですから。」
と言いました。そして、ゆっくりと、志貴さまの唇に、私の唇を重ねました。
夢でも、幻でもない。紛れも無い温かさが唇に伝わり、その熱が全身を駆け
巡るように感じました。
志貴さまは私を受け入れてくれました。
そして、志貴さまは、
「もう何処にも行かないよ、翡翠。もう二度と、秋葉、琥珀さん、そして、
翡翠の傍から、離れない。」
そう言って、私を優しく抱きしめてくれました。
私も、志貴さまを強く抱きしめました…。
/
再び、“非日常”が始まりました。
それは、望んだ“非日常”。
そしてやがて、それは日常へと変わり、凍てついた時間はやがて、以前と変
わらぬ時を紡ぎ始めます。
秋葉様もまた屋敷に戻ってこられるでしょう。
姉さんも、志貴さまが戻られたことによって喜んでいました。
願わくば、この“幸せ”が永遠に続きますように……。
(了)
―――――――――――――――――――――
あとがき
ども、稀鱗です。
今回は、趣向を変えて書いて見ましたが、いかがだったでしょうか。
翡翠視点で、書いてみましたが…難しいの何の。ほとんど回想録みたいにな
ってしまいました。
翡翠なら、こう感じるのかな?ということを念頭に書いてみましたが内容も
薄く、分かりにくいものになってしまいました。
展開も、読め読めだったと思います。だめだなぁと感じつつ、次回でリベン
ジです。
これは前回も言ったなぁ…。精進、精進。
それでは。
《つづく》
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