属性開発

                   阿羅本 景


 路地の中を吹き抜ける乾いた風が、落ち葉を舞い上げる。落葉はそれ自身が
紅いのか、それとも差される夕日に染まっているのか真っ赤に見える。それが
いくたりか舞うと、風に乗って消えていく。
 夕暮れの長い遠野家への道を、一人俺は歩いていた。丘の上にある遠野家の
正門まで高校から歩いていくのは距離があったが、この麓の住宅街を過ぎると
途端に物静かな道になる。短くはないから自転車を――とか考えるが、どうも
秋葉は自転車なる庶民の乗り物が嫌いであるようで、俺に許してくれる節はな
い。

 ――ひょっとして秋葉は自転車に乗れないからか?

 とか考えてしまうけども、間違えではないだろう。秋葉はどうもそういう庶
民の庶民的行動に馴染みがない。あいつはきっと自動改札も通れないんじゃな
いのか、とか考えると不意に可笑しくなる。

 一人でにやにや笑っているのは外見は悪いが、この遠野家への道にすれ違う
人間もまずはいないのだからそれくらい許されてしかるべきだと思う。もう少
し行くと、いつも通りに正門前で翡翠が俺のことを待っていてくれるんだろう。
 いつもいつものことだけど、頭が下がるお出迎えだった……そこまでしなく
てもいいよ、とは言っているんだけど、翡翠はこうしないと満足しないらしい
し。
 いろいろスタイルがあって難しいものだとは思うが――翡翠はなぁ

 もうそろそろ、だ。翡翠がこっちを向くと頭を下げてきて……

「オカエリナサイマセ、志貴サマ」

 ………
 ………………
 ………………………………

 なんで、ロボ?

 手が緩んでぼとり、と鞄が落ちる。
 確かに遠目で見れば翡翠に見えないこともない。翡翠のメイド服を着ている
し、カチューシャも乗っているし、背の高さも同じぐらいだった。でも

 ――どうみてもロボだし。

 顔がこう鉄板で出来ていて縦筋が入っているし、髪の毛は紫でなんか湯気立
ってるし、指先に穴が開いていてマシンガン撃てそうだし。
 ……そういえば、ああいうアンドロイドのマシンガンってどーやって弾丸詰
めているのか気になるよな、アニメとかでばりばり撃っているけども外部弾倉
ないし、あのノリで行くと「マシンガンがてから撃てるアンドロイド」じゃな
くて「腕型マシンガンとアンドロイド型弾倉」のほうが物理的に正しいし。

 ……いかん、つい思考が現実逃避してしまった。
 俺は眼鏡を外し、目を擦り、もう一度翡翠を見た――けども……ロボだった。
 うん、ロボ。というかメカ翡翠。

「……すごいや、メカ翡翠が本当に完成していたとは知らなかったよ」

 というか、作っていたという話も聞いてないし、よしんば作った暁にどうす
るかなんか聞く気も起きないし。それも、なんというのか……マシンガンとか
レーザーとか、そういうのを翡翠に要求する仕様というのはいったい誰が出し
たのだろうかと。

 ……秋葉じゃないな。秋葉はそこまで馬鹿じゃない。
 琥珀さんはあり得そうだけど、案外翡翠本人の希望かも知れない。それに、
俺はメカ翡翠なんか要望した覚えもない。

 で。なんで問題はメカ翡翠が俺の出迎えをしているのかと言うことだ。

「オカエリナサイマセ、志貴サマ」

 ……なんか、メッセージがリフレインしてるし。
 もしかして戦闘能力に特化しすぎてAI弱いんじゃないのか?とかそんなこ
とが頭をよぎるけども……いや、なぜメカ翡翠を戦闘用にするのか?アンドロ
イドが戦闘できないというのはこの国のルールに反することなのか?いや、そ
れにしても。

 ……わからない

「オカエリナサイマセ、志貴サマ」
「…………いや、その、なんで翡翠じゃなくてこれがあるの?」

 ま、至ってもっともな疑問を俺は口にしてみたわけだけど……メカ翡翠がそ
れに答えるとは思えなかった。ま、そうだよな。メカだし。
 メカ翡翠はちきちきと音をラチェットを回すような音を立てながら俺を振り
向く。目は見ているとそのままビームが出て来そうな代物で、その射線上から
どーやっても身を逸らしたくなる。
 いや、だって、メカだよ?メカ翡翠。

「……残念デスガ、ソノゴ質問ニハオ答エシカネマス」
「うわ!返事した!」

 デフォルトメッセージ以外が出て来て露骨にびっくりする俺。
 というか、この台詞もプリセットのメッセージじゃないのか?何を聞かれて
も延々とこれを繰り返せばなんとか会話しているような体裁は保てる。
 っていうか、それって会話じゃないじゃん……と思うけども、翡翠の会話の
記憶をあさってみても似たような記憶が……

「オカエリナサイマセ、志貴サマ」
「……またルーチン戻ってるし。あーもー」

 また台詞が最初に戻ってしまい、俺は頭を掻きむしる。
 いったいどういう意図でメカ翡翠が置かれているのかがさっぱり分からない
し、門を塞いでいるので排除していくのも困難そうだった。だって、マシンガ
ンとかレーザーとか打たれるといやだし。

 ……どうしたものか。
 俺は困り切って辺りを見回す。メカ翡翠を放置してどこか、壁を越えて庭に
入れば……でも、そうするとこのメカ翡翠が警備モードになって追いかけてき
たらいやだしなぁ、マシンガンとかレーザーとか大雪山下ろしとかドリルとか。

 マシンガンとかレーザーとかに拘り過ぎかも知れないけども、ほら、やっぱ
りロボット出しって……え?

 …………
 ……

 ――――――――――――いた。

「なにしてるの?翡翠」

 門柱の影にそれが居ることに、俺はやっと気が付いた。
 アーチを描く鉄細工の門の向こう、門柱の影から白いカチューシャがこちら
を覗いている。それはひょこひょこと動きながら、身を隠して俺とこのメカ翡
翠を探っている。
 もちろんそんなことをするのは一人しか考えられない――翡翠だ。

「……………」
「だから、そこにいるのは分かってるんだから隠れない」

 ひゅっと引っ込んで姿を見せない翡翠の頭に、俺は諦めなさい、とばかりに
声を掛ける。翡翠も本当は隠れる気が無かったんじゃないのか、という気合い
の入らない隠れ方だったし、それに……何がなんだか分からない。

 翡翠の変わりに出迎えがメカ翡翠。
 本物の翡翠は、物陰から俺を覗いている。
 いったい何が起こっているのか――わからない。分かるわけがない。そもそ
もメカ翡翠ってなんだよ、という当然の疑問からスタートしてしかるべきなのに。

「………志貴さま」
「や、ただいま、翡翠。とりあえずメカ翡翠が居るみたいだけど、これどうし
たの?」

 俺はメカを指さしながら、気後れがちに顔を覗かせた翡翠に尋ねる。穏やか
にそう聞いたつもりだったけども、翡翠の目つきを見ているとなんとなくやな
感じがした。
 翡翠の目の中に螺旋が渦巻いているような……気のせいかも知れないけども、
俺を見ながら俺じゃない何かを視ているような。

 翡翠はじーっと俺を見つめている。
 無言で見つめられるとなんとも居心地が悪い。いったい何が起こるのか見当
も付かず、背中に汗を掻くような――翡翠に何をどうしてこうなったのかを説
明してもらわないと、どうも落ち着かない。

 俺と翡翠の間の何とも言えない沈黙に、フィーンと機械の動作音を立てるメ
カ翡翠のノイズが和してなんとも気が重い。目の前のそそり立つこの門よりも
大きな何かが立ちふさがっている感じだ。

「……なぜ、志貴さまは気が付かれたのでしょうか」
「………………………………………………………………」

 真顔ですさまじいボケを噛ます翡翠に、俺はどんな声を掛ければいいのか分
からなかった。
 分かるわけあるか、というのが本音の所だった。俺は頭をゆっくりと困りな
がら掻き、言葉を探るけども……なんか、今の翡翠には何を言っても無駄なん
じゃないか、という徒労感が先に立つ。

「いや、だって、ほら、これどう見てもメカだし」
「ですが、私の形を模しているので当然志貴さまはそれを私だと」
「あのー、翡翠さん?これをどうやって見間違うんですか?」

 指を突きつけた先のメカ翡翠は……確かにメイド服とカチューシャは翡翠に
物だった。それに、翡翠に似せようとする技術的努力は感じる。だが、これを
見間違うのは至難の業だった。
 そりゃぁ闇夜の中で1000m先から暗視スコープで狙って見間違うとかい
うのならあり得るかも知れないけども、どーやってもこれ、この距離だとメカ……

 俺の当然の回答を前にしても、翡翠はあのぐるぐるとまわる不思議な瞳のま
まだった。

「志貴さまは、私と姉さんをカチューシャだけで判別していると聞きました。
ですから私のカチューシャが乗っていれば当然志貴さまは」
「なんですかその暴力的な理論は……というか、そりゃ確かに琥珀さんと翡翠
は双子の姉妹だけども、そこまで俺は鈍感じゃないぞ、うん」

 一応はそう言うことにしておいて欲しかった。琥珀さんが翡翠に化けるとな
かなか見分けるのは困難なのは事実だけど――その論法をこんな異次元風のひ
ねりに加えられると、こう、困る。

「というか、生身の人間とメカを見誤るのは至難の業だと思うけども」
「……いえ、失礼ながら志貴さまを私、試させていただきました」
「はぁ」

 何か、妙な方向に話が進むな……と頬を掻きながら思っていると

「もし志貴さまが本当に私のことを愛していらっしゃるなら、これを翡翠だと
信じて疑わないはずです!」

 ――――断言されてしまった。
 いや、その、なにかまた俺が理解できないすごい飛躍がここにあった。三段
飛びというか棒高跳びというか、どっちかというと蝦ぞりハイジャンプ分身十
字魔球って感じで。
 つまり、あれだ。わからない。

「…………………………………………………………………………」

 とりあえずは俺が出来ることは、頭を掻きながらメカ翡翠とリアル翡翠を交
互に眺めることだけだった。翡翠の飛躍にどう答えたものか、というかなんで
まずそうなったかが重要な問題だ。聞いたところでわかりはしない、という予
感はあったけど。

「……えーっと、なぜ?翡翠」
「志貴さまはそのメカ翡翠と私の見分けが着かないはずです、そして志貴さま
が私を愛しているのであれば、必ずやそのメカ翡翠を私だと信じて疑わない…
…」
「まて、翡翠。その論理は成立しないと言うか、自己撞着しているぞ」

 俺は手を挙げて翡翠の言葉を制する。それは議論の主導権を奪いたいからで
はなく、正直聞いていると頭が痛くなる論理だったからだ。
 そもそも、なんだ、その無理な仮定と結論の持って行き方は……こんな超論
理を目の前にして、絶望を覚えない方が無理と言うものだ。

「……そうでしょうか?志貴さま」
「いや、そうだって。で、もし俺がこのメカ翡翠を翡翠だと信じ込んで振る舞
ったら、本物であるところの翡翠はどうするの?」

 それは当然の疑問であった。
 門柱から顔を覗かせる翡翠は、見る見るうちに顔色を青くしていく。なんと
いうか、そんなことも考えないでこんなことをしていたのかと……いやだが、
メカ翡翠なんてどっかから持ってくる翡翠の暴走だとしたら、ないでもないが。

 翡翠は目の中の螺旋をぐるぐると回しながら――そんな風に見えた困惑の瞳
で喋り始める。

「それは……そうなると志貴さまの寵愛が私からそのメカ翡翠に……」
「いや、寵愛って……」
「志貴さま!志貴さまにメカ萌え属性があっただなんて心外です!せっかく心
を込めてお仕えしてきたのに生身の人間よりロボ娘の方が好きでいらっしゃっ
ただなんて!」

 ……あー、なんだ、その、あれだ。
 話を修正する気はさらさらなかったが、どうしようもない方向へと翡翠が進
んでしまっていることだけはよく分かった。今の俺は翡翠という暴風の中で揉
まれる小舟と同じだ。
 頬を掻きながら、俺は弱々しく呟くのみ。

「……メカ属性って、なんですかそれは」
「迂闊でした、私の計画が危うく志貴さまを禁断のメカ萌え属性を目覚めさせ、
私の愛を失うどころかひいては秋葉さままで親類縁者にメカ萌えを生むという
屈辱を……」
「そういうもんなんですかね、いやでもこれじゃ駄目だろ、うん」

 外見が人間と紛う方無いアンドロイド少女、というのは確かにコーフンする
物があるけども、この鉄仮面なメカ翡翠に発情するほど俺は駄目人間じゃない
ぞ、と翡翠に言い聞かせたかった。ここまでメカメカしいと、なにか別の属性
が付かないと興奮しないだろう。

「いえ!志貴さまは私を愛していらっしゃるのでメカ翡翠がこれくらい機械チ
ックでも十分にストライクゾーンなはずです!」
「ごめん、翡翠。ストライクゾーンってピッチャーが投げてキャッチャーが受
け取るものであって、決してセカンドやバックスクリーンが受け取るものじゃ
ないと思うぞ」

 いや、どちらかというと翡翠の球は遙か上空の人工衛星か何かを目掛けて投
げているような気がするのだけど。
 なにか話がまた、ねじれながら同じ所に戻ってきてしまったような気がして
……気が付くと俺はその場に脱力してしゃがみ込んでいた。

 こうも話をしていて通じない相手だと、無力感と言うよりも絶望の方が先に
立つ。それに、このままだと日が暮れるまで俺は門の向こうを潜れなさそうな
気がして……
 翡翠はふるふると震えながら押し黙る。なにか、彼女の中で彼女の道理が構
築されて行ってるのだろう……あまりそれを知りたいと思わせるものではなか
ったが。

 ギィ、ギィギギギと重い金属のうなり声がする。
 顔を上げると、閉ざされていた遠野家の門がゆっくりと開いていく。何が起
こったのか……いや、門の真ん中に仁王立ちするのは、決意に瞳を燃やした翡
翠の姿。ゆっくりと腰を上げ、立ち上がろうとする俺が聞いたのは――

「志貴さま、志貴さまの心を惑わす不埒なニセモノを成敗致します」
「へ?」

 ……なにか厄介なことがますます厄介になってきたなぁ、と背筋を伝う汗で
感じた。
 翡翠は手にいつの間にかフライパンと煤払いを握りしめていた。それを持っ
て俺を待ちかまえていたのか――などと聞く間もなく、きっと翡翠は顔を上げ
る。

「いや、だって、これをここに置いたのは翡翠じゃないか」
「それは私の計算ミスでした。よもや志貴さまがメカ萌え属性で私をないがし
ろにする事態を招こうなどと……ですが、志貴さまの愛はこの手で私が守って
見せます!」
「……なんだ、その、がんばれ」

 それくらいしか言うことはない。ここまで自分でお膳立てして自分でヒート
アップする翡翠のマッチポンプぶりを前にすると、止めることの困難さだけを
感じる。
 今まで沈黙を守っていたメカ翡翠が、向けられたフライパンに反応する……

「……ピッピッ、脅威捕捉、戦闘モードニ移行シマス」

 きりきりきりきりー、と嫌な音を立てながらメカ琥珀の首が動く。
 瞼のない目がちっかちっかとウィンカーのように点灯し始めて……あまりに
もベタなメカっぷりにため息が出そうになったけども、もし本当にこのメカ翡
翠がマシンガンとかレーザーとかが撃てたとすると……

 じわっと、背中に嫌な脂汗を掻く。
 そうなるといかな翡翠でも無傷ではない。実際にはこのメカ翡翠は張りぼて
かも知れないけども、それでももし本当に戦闘ロボだったとすれば……

「……戦闘モード移行。オドキイタダカネバ、不躾ナガラ攻撃致シマス」
「……参ります!」
「えええい、もう!」

 フライパンを振りかざす翡翠
 腕を前へ習えのように上げて、指先の銃口を向けるメカ翡翠。
 このまま傍観していても埒があかない――

 俺は眼鏡を脱ぎ、翡翠とメカ翡翠の間に躍り込む。
 死の線が見えてしまうが、この方が驚くほど体が軽い。吹く風より早く軽や
かに躍り込むと、振りかざしていまやフライパン毎メカ翡翠に吶喊せんとする
翡翠に――

「志貴さまっ!」
「……よ、間に合ったか」

 俺の手は、頭上に上がった翡翠の手首を捕らえていた。それはフライパンを
握りしめた物騒な腕で、そのまま落ちてくれば俺も無傷じゃ居られないだろう。
 そして、もう片腕を翡翠の脇に回し、突き進む翡翠の身体を胸で受け止める。
とす、と胸に翡翠が飛び込んでくるのが分かる。

 翡翠ははっとして俺を見上げる。
 俺は優しい微笑みを浮かべると、翡翠に――

「翡翠、物騒なことは止めてくれ」
「ですが、志貴さまをあのメカ翡翠から取り戻すためには私は戦わねばならな
いのです!」
「……馬鹿だなぁ、翡翠は」

 意気込んでまくし立てる翡翠に、俺は目を閉じてそっと――額に口づけする。
 唇がかすかに産毛の生えた翡翠の肌に触れる。それに唇を押しつけると――
緊張で硬くなった翡翠の身体が、少し緩んだように感じた。

「あ……志貴さま……」

 俺は翡翠に、静かに囁く。

「こんなに翡翠のことを愛しているのに……メカに心を奪われるわけ無いじゃ
ないか」
「ですが、志貴さまは……」
「翡翠は翡翠で、ありのままの翡翠が好きなんだよ……だから、俺の翡翠への
愛を試すのなら、こうして――」

 俺は翡翠を抱きしめたまま、翡翠の唇を奪う。
 翡翠は俺に抱きしめられた格好で、背中を反らせて――被さるようにして唇
を奪う俺は、柔らかな翡翠の身体と唇を感じながら。

「私は……私は志貴さまのことを……」
「翡翠……」
「………ピッピ、戦闘中ナノニ濡レ場ヲ見セツケルトハドウイウ算段デスカ」

 ……なんか後ろで妙なつっこみが聞こえる。

 でも、そんなもんはもうどうでも良かった。翡翠の掲げた腕から手を離すと、
からん、とフライパンがアスファルトの上に落ちて大きな音を立てる。
 俺は開いた手を翡翠の胸の上に触れた。柔らかな翡翠の胸の下に、とくとく
と心臓が鼓動を打っているのを感じる。そのまま手を動かし、乳房を揉み回す。
 翡翠は胸の刺激に軽く身体を竦ませるが、それでも俺の腕の中で唇を奪われ
て大人しくしている。それでもまだ身体の奥が緊張していて、ぎこちなさを感
じた。

 背中に回す手を下げて、翡翠のお尻をスカート越しに触る。肉付きはほどほ
どの小振りなお尻を撫でると、翡翠が爪先立ちになるのがわかった。手にはス
カートの布地の感触があるが、それとて翡翠のきめ細やかな肌を撫でているよ
うに錯覚して――

「……戦術マニュアル検索、コノ新戦術ヲ分析シマス」

 なんか後ろで機械ボイスが言ってるけど、まあいい。

 俺は翡翠の胸とお尻を撫でていたけども、服越しでは次第に物足りなく感じ
る。感じたい、翡翠をもっと直に――そうなると、俺はスカートの後ろをたく
し上げ、裾を上げるとその中に手を潜り込ませる。

 今度はもっとダイレクトに、掌に翡翠のショーツとお尻を感じる。手を動か
してショーツのお尻のラインを探ると、その間に手を滑り込ませる。掌にはじ
わっと暖かい翡翠のお尻のつるつるの肌を感じて――お尻の引き締まった筋肉
と、その上の柔らかな脂肪の触感のコントラストが見事だった。

「あ……はぁ……志貴さま……」

 翡翠の手は俺の胸の辺りを探っていたけども、だんだん下に下がってくる。
そして、俺のズボンの上から硬く強張る欲望の固まりをなで回していた。股間
には血と欲望が集まり、ずくずくとマグマのように脈動している。
 その上を翡翠になで回される――のは、たまらない。

「翡翠……俺のも……」
「志貴さま……」
「戦術マニュアル検索終了。コレハ未知ノ新戦術ト評価シマス」

 翡翠の手が、チャックを下げて俺のペニスを引っ張り出す。
 俺は翡翠のお尻の谷間を撫で、後ろから翡翠の秘裂に触れる。粘膜の襞の集
まりが指先に触れ、そこに指が埋もれそうになる。
 くんっ、と翡翠の身体が俺に抱きつく。そうなると、俺の剥き出しのペニス
は翡翠のエプロンに押し当てられるようになり、先っぽに布地が押し当てられ
る。
 俺のペニスを、翡翠は握っていた。そして、先をエプロンの押しつけながら、
その軸を扱くように愛撫し始める。

「ん……はっはぁ……翡翠……いいよ……」
「志貴さま……ひゃう……あああん、ん、ああ……」

 俺たちは立って抱き合ったまま、お互いの大事な部分を弄りあっていた。
 俺はいまや両手を翡翠のお尻に潜り込ませ、無防備な後ろから翡翠を指で愛
撫していた。お尻の穴を突いてやると、翡翠は甘い声を上げる。
 そして、翡翠の手はゆっくりと、だが着実に俺のペニスを興奮させていた。
細くしなやかな翡翠の指は何よりも気持ちよく、それだけで翡翠のエプロンの
手を精液で汚しそうになるほど……いや、もう先走りの液で翡翠の手はぐちょ
ぐちょと音を立てている。

「新戦術ハ欺瞞ト推定サレマス。天下ノ公道デコノヨウナ破廉恥キワマリナイ
行為デ警戒ヲ逸ラスモノト分析サレマス」

 うるさい、メカ声。
 
「はぁっ……志貴さま……翡翠はもう……」
「うっ……もう我慢できない……翡翠が欲しい……」

 俺も翡翠も、二人とも息を荒くしてお互いの身体にもたれかかる。
 俺の指は翡翠の膣口に浅く埋もれていた。そこは湿ってひくひくと震えてい
て、今にも男性を受け入れたくて堪らないような……俺にそう信じさせるには
十分だった。
 翡翠も俺のペニスの熱さと硬さが何を意味しているのか悟ったように、ゆっ
くりと手を離す。そして、スカートの前をたくし上げ、俺を迎え入れようとす
る。

 俺は翡翠のお尻を抱き上げると、そそり立つペニスを支店にして翡翠を貫こ
うとする。翡翠がめくり上げた剥き出しの股間に、手が宛われて進んでいく。
そして亀頭にざらりとした陰毛が当たったかと思うと、ぬるりとした暖かく柔
らかい翡翠の秘裂に迎え入れられて――

 俺は腕に力を入れ、翡翠の身体を腰の上にのせる。
 ずぷり、とペニスが翡翠のきつい膣道に飲まれていく。それはぎゅっと俺の
ペニスを包んできて、それでいながら拒むでもなく内側に招き入れるような―
―快感だった。

「はぁぁぁっ!志貴さまぁ………」
「翡翠……いくよ……んっう!」

 ちょうど立位の格好で、翡翠を犯す。
 翡翠は俺の首に手を回し、必死に抱きついてくる。女性を貫かれる快感に震
えているのか、声も息も荒く、俺には甘美な牝を抱きしめて愛しく、そして激
しくそれを――

「欺瞞戦術ハ通用シマセン。攻撃シマス、攻撃シマス」

 ……なんか言っているようなきがするけど、わからない。
 俺は翡翠を下からずんずんと突き上げた。翡翠は俺の腰の上に跨り、腰掛け
る様に深く俺を迎え入れていた。翡翠の体重が掛かり、翡翠の子宮をずんと突
き上げるのが分かる。そう言う風に翡翠の身体が下がると、ぎゅっと俺の首筋
を抱きしめて翡翠が――

「はぁ――あああああっ!んっ、うぅあああ!志貴さま…」
「ふっ、はっ、ふぅ……はぁ、はぁ、んっ!」

 翡翠は俺に無我夢中で抱きつき、俺は翡翠を一心不乱に突き上げて。
 二人ともここがどこなのか、何をしていたのか、それに後ろのメカ翡翠の銃
口が狙っているとかそんなことを全部忘れて、ただお互いの身体の熱さだけを、
痺れるような秘部の快感に、そしてお互いの求め合う心に酔いしれながら――

「翡翠っ!」
「志貴さまぁ!」
「少シハ私ノコトモ意識シテクダサイ!空気読ンデクダサイ!二人トモ自分タ
チノ世界ニ浸リ過ギ!」

 うるさい黙れ。メカのつっこみなど却下だ

「いく……いくよっ、翡翠……」
「はぁっ……いらっしゃってください、志貴さま……志貴さまの愛のあかしを
翡翠の中に……」
「モウ堪忍袋ノ緒ガ切レマシタ。全火力非制限モードデ攻撃シマス」

 撃ちたければ撃て、それでも俺と翡翠の愛は変わりはしない!
 というか、人のセックス中につっこみを入れるな、デリカシーのないロボだ。
ロボにデリカシーがあっても困るけど。そもそもロボに堪忍袋があるのか。

「翡翠ぃぃぃぃぃ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!
「なにやってるんですか兄さぁぁぁぁぁぁぁん!」

 ギギギギギーーーーーー!
 ガンッ!

「ハグァァァ!」

 ……射精の時の絶叫とか擬音にしてもなにかそれは派手すぎて――
 でも、俺のペニスはさきっぽからどっくとっくと熱い精液を翡翠の中に吐き
出し、それを感じている翡翠は肩に顔を埋めてふるふると震えて、もう声も息
も枯れ果てたように……

 ……でも、なんだ。あの急ブレーキ踏んだような音と、跳ねたような音は。
 俺は翡翠を腰に抱き上げたままの格好で首を巡らせると――

「はあっはあっはぁ……兄さん、ですから何をやってるんですか」

 なぜか、リムジンの運転席から秋葉が降りてきた。肩で荒く息をして、髪の
毛の裾が朱墨に浸したように赤い。セーラー服で殺気走った瞳が俺を居る。
 助手席からはみ出てきた運転手さんがおろおろと車のフェンダーを見つめて
いた。それは凹んでいて、その先には――はね飛ばされたメカ翡翠が壁に頭か
らめりこんでいた。

「ナイス秋葉。流石我が妹、無粋な邪魔を排除してくれたようだな」
「何を言ってるんですか兄さん!そ、それに翡翠も!遠野家の門前をなんだと
心得ているんですかっ!」

 あ、そう言われればそうですね、俺は翡翠と門前青姦でセックスしてしまっ
たわけで。
 俺はうんうん、と頷きながら翡翠の頭をぽんぽんと優しく撫でる。翡翠はイ
ってしまったまま俺の身体の上でぐったりしていて……いや、この状況でこん
な気持ちよさそうにイけるのは一つの才能じゃないかとおもうけども。

「ほら、愛する二人には場所も時間も関係ないってことで」
「何を脳が膿んだ事を言うのですか……そ、それよりも」
「秋葉、まだ免許取れる前に車を運転するのは止めた方が良いぞ。いきなり人
身事故……じゃなかったメカ身事故を巻き起こしているし」

 ま、そうしなかったらどうなっていた事やら……でも、本当にメカ翡翠から
マシンガンとかレーザーとか出たんだろうか?あそこまでやって出ないのは詐
欺だと思うぞ。
 うんうん、と納得して頷く俺が見たのは、ぶるぶると目に見えるほど激しく
震える秋葉であった。水銀式の温度計を見ているように、赤い髪がすーっと裾
から上がっていく。

「そんなことを聞きたいのではありません!ですから翡翠と何をしていたので
すかっ!」
「見てのままだけど……ま、そこのメカ翡翠とかと一言で言えないほどにめん
どくさいことがあって、言うに言われぬ事情でこうなりました」
「だから……私に見せつけるように門前でせ、せせせ……」
「せっくす?」

 言いづらそうな言葉を補足すると、ぽん、と秋葉の頭から蒸気弁が弾けたよ
うに湯気が吹き上がった――様な気がした。おお、分かりやすくて可愛いな、
秋葉。

 むきー!という言葉にならない叫びが秋葉の喉から漏れる。

「ですから使用人である翡翠と門前で遠野家の長男である兄さんが白昼堂々破
廉恥にもも性行為に耽っているなどと言うことがどこのどの世界の理屈によっ
て成立するのか速やかにお教え頂かないとこの遠野秋葉が如何に温厚な人物で
あれ事の次第によっては容赦しませんですから速やかに回答ください兄さん!」
「……いや、まぁ、じゃぁ次は秋葉の番で」
「そ、そんなことを言っている訳じゃありません!翡翠も何か言いなさい!」
「はぁ……素敵です、志貴さま……私の中にこんなにたくさん……」
「…………」

 長々と息もせずまくし立てたかと思うと、俺と翡翠の空気の読めてない発言
に一瞬ひるみを見せる。
 これがチャンスだ――

「だっしゅ!」
「逃げないでください兄さん!」
「わははは、愛する翡翠との逃避行、なまじやきもち妹の秋葉に追い切れるも
のではないー!」

 俺は翡翠を抱えて繋がったまま、走り出す。
 妙な精気に満ちあふれる俺には、翡翠を抱いたまま走ることなど分けないこ
とであった。
 どすどすと二倍の体重を抱えて走り出す背後から、秋葉の声が――

「お待ちなさい!」
「わははははははー」

            §            §

「あああ……」

 和服の上にフード付きのマント、という珍妙な格好をした少女が、へたりこ
んだ。
 彼女の後ろでは、白手袋と帽子の中年の運転手が困り切った顔で立ちつくし
ていた。彼と彼女の前にあるのは、人型のひびを走らせて壁にめり込んでいる、
メカ翡翠の残骸がある。

「せっかく……せっかく心血と遠野グループの裏資金を流用して作った私の秘
密兵器が……メカ翡翠が翡翠ちゃんの手によって持ち出されてこんな事に……」
「あの、お車の方の修理もありますので、琥珀殿」
「琥珀ではありません、私はマジカルアンバーです」

 謎の名称を口にする少女に、運転手は帽子を手に困惑を隠しきれなかった。
 マジカルアンバーはひらひらとやる気なさげに手を振ってみせる。

「リムジンなんかちゃっちゃと直してください。ああんっ、翡翠ちゃんのいけ
ず……でも、メカ翡翠完成の暁には必ず翡翠ちゃんの心をゲットしてみせるか
らっ!お姉ちゃん頑張っちゃう!」
「はぁ……でも琥珀殿……」
「ですからマジカルアンバーです!ああんっ、これが私の翡翠ちゃんへの愛へ
の試練なのねー、でもその困難さが私をますます禁断の愛に駆り立ててー!こ
れが愛なのねっ、純愛なのねー!」

                                《お終い》