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で。
何故か遠野志貴(猫)は屋敷の浴場にいる。
洗面器に溜まったお湯に容赦なくブチこまれて、頭上からは滝のように降り
注ぐシャワーのお湯。温度はぬるめに設定されているらしく、丁度いい暖かさ
は体力を根こそぎ奪うような心地よさだ。
レンはというと、いつもの衣装で腕まくりして、いかにも「やる気満々」と
いった様子。
普段は感情を出さない彼女だが、今はどこか嬉しそうに見える。上機嫌でシ
ャワーの角度を調節し、隅々までこちらを洗ってくれる。
白く細い腕がボディーソープへと伸びる。
出てきた流動体を手のひらで軽く広げて、そのままこちらの身体を。
にゅる。
直で触ってきた。
そこには躊躇も容赦も何も無い。ぬめるボディーソープが脇から背中へと塗
りたくられてゆく。縦横無尽に動く指が、こちらを包み込むように動き、首筋
を軽く引っ掻く。
気の抜けた今の状態に、その衝撃は心地よすぎる。抵抗することも忘れて、
身体をレンに預けるように放り出す。
首筋の毛並みを掻き分けるように動く指。柔らかいその感触は、ぷにぷにと
こちらの身体を這ってゆく。
首筋を抜けて胸を洗い、両手で腰のくびれた部分を揉みしだくようにする。
「ん……にゃぁぁ」
自然と声が吐息のように漏れてしまった。
レンの顔を窺うと楽しそうに笑っていた、無邪気で、悪意の無い表情。普段
は見せないような表情を見せられてしまって、すとん、と力が抜けるのを感じ
る。
きゅっ!
まるで、そんな擬音が聞こえてきそうなほど。
そのくらいに唐突にレンの指がこちらの尻尾を掴んできた。お湯で少し上気
した指は、鍵尻尾をしごき始める。
尻尾が細いためか、こちらの意思に反して動いているからか、彼女の指は上
手い具合に尻尾を洗えないらしく、ゆらゆら揺れるそれに悪戦苦闘していた。
一方、こちらはというと、レンの指がこちらの尻尾を弄るように動いている
ものだから、完全に腰砕けになってしまっている。指の間で尻尾がしごかれる
と、こちらの意に反して尻尾が痺れたように跳ねた。
まるで股間を弄られているような感覚に、零れる息も荒く、激しさを増して
ゆく。
屹立こそしないが、尻尾に押し迫るものは確実に志貴の身体の別の部分に影
響を施していた。今までは意識していなかったが、ほんの少しだけ意識を向け
ると、節操無く堅くなっているそれを感じることができた。
「ふ、にぃぃぃ、にゃぅぅ」
尻尾の責めがさらに激しくなっていく。
五本の指は、それぞれが鉤のように曲がり尾を掬い取るように撫で上げてき
た。手のひらと指とで挟まれるように摩擦する感触は、背筋に軽い痺れをもた
らす。五指が鍵盤に旋律を奏でるように動くと、こちらの声からあられもない、
情けない旋律の声が漏れ出る。
また、時折にキュッと力強く握ったりするから油断がならない。強弱緩急の
つけられた動きは熟練した技のよう。
溶かされ、声も蕩け、喘ぐ。
にぃ。
そんな風に。
ごろん。
仰向けにされた。
抵抗する意思も力も存在しない今の状況では、こちらをひっくり返すなど造
作も無いことだろう。
降参―――お腹を向けてだらしなく手を万歳の形に伸ばし、その旨を表現。
仰げばレンの顔が映る。
その表情は相変わらず楽しそう、そして控えめながらにこやかに揺れる瞳は
一点に収束。その視線の終着点をこちらも見つめる。
尻尾を刺激され、情けなくも勃起しているそれを。
「……にゃ?(もしや)」
胸の中に嫌な予感が去来する。
それが確信に変わるよりも早く、レンの腕が伸びていた。
抵抗する暇もない。元々、力の抜けきった身体では抵抗しようと動いたとこ
ろで、小指の先程度しか動いてくれなかっただろう。
柔らかい指の感触が下腹部を襲う。
軽く揉まれただけだというのに、腰が波打つように動いた。
あくまでも洗おうという意思なのか、レンからは淫靡な雰囲気などまったく
もって感じられない。その姿が逆に、こちらだけ悶えていることを恥ずかしく
意識させる。
普段よりもサイズの小さな幹を丁寧にさすってきた。
上下にゆっくりと動くその動きは……なんというか拙い。
転がすように撫でられた股間は膨張に膨張を重ねて、今にも暴発してしまい
そう。だが、そんなこっちを知ってか知らずか、レンの指はさらに激しく動く。
袋の部分を指先で引っ掻くように揺らす。
触られているのに、触られていないようなじれったいもどかしさ。
その絶妙なレンの指使いに身を震わせると、突然に袋を手のひらで包み込ん
だ。そして今度はやわやわと揉みほぐす。
唐突に訪れた衝撃は――――あ、拙い。
たまった何かが堰を切るような錯覚。
錯覚はじょじょに意味を成してゆき、現実へ。
びくん、と身体が何度か震えた。
この感覚は、脊髄を突っ切るようなあの感覚とは異なるものだ。
理性が。
理性が衝動を抑えようとしている。
だけど。
獣の自分に理性はいるのか?
不意に脳裏をよぎった言葉に脱力する。
安堵したのかもしれない。
このままでいいと。
そう思った瞬間。
股間から弧を描く液体が吹き出していた。
我慢に我慢を重ねたためか、勢いよく飛び出すそれは、レンの顔に容赦なく
かかってしまう。
驚いたように顔をそむけるレン。
そんな中で、志貴は自身を覆う開放感に浸って意識を沈めた。
頬をなでる柔らかい感触で目覚めた。
耳を澄ませばけたたましく蝉が鳴いている。残暑を惜しむかのような金切り
音に、自分を支配していた睡魔が無理矢理に霧散。
………確か、変な夢を見ていたような。
「―――――っ」
どことなく不機嫌な様子で寝返りを打つ気配。
だが、それも緩やかに収束してゆく。この庭園は風通しが良く、九月初旬の
暑さも気にならないほどに心地よい空気を運んでくれる。
大きく伸び。
全身を使い大きく自己を主張するようなそれは、この空間は自分の物だ、と
主張するようなふてぶてしさを含んでいるように思えた。
まるで猫のような。
ふと、身体を抱きかかえられる感触。
誰だろう、と思って頭を動かして主を確認する。
くせのある髪の毛、柔らかな雰囲気。纏う気配はふさふさの犬を思わせ、表
情も穏やかなものを構成している。指は男性特有の堅さであったが、他の男性
と比べてキレイな形をしている。瞳が人懐っこい笑顔に揺れた。
遠野志貴。
自分の契約主であり、特異な眼を持った存在。大切なヒト。
「ありゃ。レン、結構汚れているなぁ。地面で寝てたのか?」
首を傾げる志貴。
よくよく彼の腕を見てみれば、土やら砂やらで汚れてしまっている。こちら
を抱きかかえたときに付いた汚れなのだろう。彼はその汚れが服や腕に付くこ
とについては意に介していないらしく、こちらの身体の汚れを心配していた。
そんな心遣いが自然とできる人間なのだ、志貴は。
「うん、決めた。洗ってやるよ」
だから、これも善意の言葉であった。
で。
屋敷の浴場にいる。遠野家の浴場は何度か利用したことがあるが、それは人
型になっている時であって猫の姿で利用したことは今までに無い。
そもそも、身体を洗ってもらうということ自体が初めての体験だ。
ほどなくして志貴が入ってくる。どうやらボディーソープなどを持ってきた
らしい。腕まくり、足まくりをして気合十分といった様子である。
鼻歌まで聞こえてきた、よっぽど機嫌が良いらしい。
「〜♪ レン〜、おーまーたーせー♪」
調子っぱずれな歌声が浴槽の中によく響いた。
にこやかにやってきた志貴がボディーソープを手のひらにのばす。
普段だったら煩わしくなって逃げ出していただろう、だが今日はどうにもそ
ういう気分にはならなかった。ぬるめに出されたお湯が思いのほか気持ちよく、
脳内に靄をかけている。それが思考することを後回しにして、緩やかな心地よ
さに身をゆだねさせる結果になった。
抱きかかえ、その両手でわしゃわしゃと毛並みを掻き分ける。
そのくすぐったさに身を震わせるが、志貴は意に介した風もなく背中をさす
りだす。指の一本一本が猫じゃらしのように身体を撫で動く。
自分でも解るくらいに息が上気している。
だが志貴はそんなこちらは知らずに、指を顎下にやりくすぐるようにしてき
た。
こちらの様子を楽しむように笑みを浮かべる志貴。
そこから意地悪さなどは微塵も見受けられない、おそらく本心の善意から自
分を洗っているのだろう。悪意が無いだけに性質が悪い。
こちらは。
志貴に身体をまさぐられて、十分に興奮しているというのに。
なのに。
志貴はそんなことに気づかない。
なんで。
恐ろしいくらいの勘の良さを持っているのに。
あ。
脇をすり抜けた指が、柔らかな胸の部分を撫で始める。先端を使って肌の上
を引っ掻いてきた。それは、気持ちよくなるかな、という小動物に向ける何気
ない悪戯心故の行動。
しかし、その行動の性質の悪い所は先端は先端でも、指先ではなく爪の先と
いうことにある。その微妙な堅さが胸の柔らかな部分に薄い跡を残し、もどか
しい感覚の痕を残す。
その爪先が不意に―――乳首を引っ掻く。
「―――んにゃっ!(ひゃぅん)」
電流でも流されたように弓なりに身を反らした。その不意打ちの刺激が気持
ちよく、弱々しい痛さすらも快感を加速させる。
なのに。
志貴には悪意が無い。
善意とほんのちょっぴりの悪戯心だけだ。
それがもどかしい。
こちらが快感を増幅させていても、志貴にはそれが伝わらない。
今だけは志貴の善意がうらめしかった。
「にゃ、にゃぅぅ」
求めるように身をくねらせ、小さな舌先を伸ばす。泡が付いていることを意
に介さずに、志貴の指を舐めて、意思を疎通させようとする。
「ん、どうしたのレン? お腹すいた?」
――――愚鈍。
《つづく》
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