「強い牡は牝に何をしてもいいのよ」 仕事が終わってカウンターで座ってちびちびやっていたオレの横に座った見知らぬ女は、背筋をぞくりとさせる妖艶な声でそう囁いてきた。 神の猟犬 大崎 瑞香
/ その紫色の唇を艶めかしくそそるように動かす。その奥で濡れた朱い軟体がやらしく蠢いていた。白髪かと思わせる美しい銀髪は照明を受けて淡い光を放っている。それを胸ほどで切りそろえていた。その髪で顔の右半分を隠している。見える左側からは切れ長の艶めかしいオンナの瞳。それは深い翠色で、電灯の光をうけて煌めいているかのよう。肌は白く、まるで人形のようだった。 その妖艶な人形はその蠱惑的な唇を動かし、また囁いた。 「強い牡は牝を従えていいのよ」 そのハスキーな掠れた声にゾクゾクしてしまう。まるでその声がじんわりと背筋を舐め上げていくような悪寒に近い感覚に肌が粟立った。 「……どういう意味だい」 オレはなんとか声を絞り出した。喉がひりつくほど乾いていた。声がかすれて自分でも聞きづらいほどだったが、そんなことはかまわなかった。そんなことよりも横に座った女の反応が知りたかった。 女はクスリと笑った。幼女のような可愛らしい物ではない。それは男を知り尽くした姦婦の笑み。爛れきり堕ちきった女だけが浮かべられる猥褻な笑みだった。 「――そのままよ」 しなをつくるような体の動き。体のラインが隠れるようなぶかぶかの服なのに、そのしなやかな曲線が感じられるような動きにオレは見入ってしまう。その胸のはり、腰の細さ、しりのまるみがその服の下で艶めかしく動いているに違いない。誘っていた。誘われていた。 「……オレにはわからないな」 「あら、あなたは猟犬でしょ」 女の手がすっと伸びてくる。それがそっとオレの太股に触れた。スラックスごしにでも女の柔らかさと温かさが感じられる。その手は卑猥になで上げて、男をくすぐる。 「り、猟犬って……」 「ふふふ。じゃあいいわ」 何もかも知っているのよという妖しい笑みで幻惑される。 「でも強い牡ならば牝は奉仕しなければならないのよ」 「……それはオレが強い牡で、あんたが牝ってことかい?」 その言葉で女の目が細まった。その翠色の瞳は熱く潤んでいるかのようであった。その濡れた瞳がオレの心さえも縛り付けるかのような輝きを湛えていた。 息が出来なかった。ただその瞳に、その指先に、その声に、その言葉に、その女に溺れるかのように魅惑されていく。 目の前にいるのは男を破滅される魔性の女だった。たったこれだけの会話だけでわかる。男を堕落に導く淫魔だ。 そのことが充分にわかっているのに、オレは会話を止めることはできなかった。女の指先がオレの弱く柔らかいところをぴたりと押さえ込んでしまっていた。 その指先はそろりそろりと太股を登ってきている。もうすぐ股間にまで来ようとしていた。その柔らかく温かい指先がオレの男に触れようとしていると思うだけで滾りそうだった。 でも手の動きはとまり、指がまるで焦らすかのようになで上げるだけ。見えるのは女の唇。てらてらとひかるたっぷりと紫色のルージュを塗ったやらしい口唇だけがすべてだった。 「――そうね、あなたが強い牡だったらわたしは奉仕してもいいわ」 「奉仕って……どこまでだい?」 軽口を叩いたつもりだった。が、声はうわずっていて、まるで初めて女を前にした童貞のようにオレの耳には聞こえた。喉がひりついて痛い。目の前には今さっきたのんだジントニックがあるのに、それを飲むことさえ出来ない。 ただ女の仕草ひとつひとつに感じてしまう。悩ましい色香を放つこの牝に、魅惑されていた。 「――そうね」 さらに艶やかに笑う。口唇がひらき、濡れぼそった舌がでてくる。それがぽっちりとした唇を舐めた。まるで擽るかのように、見せつけるかのように、ただいやらしく。 「――なんでもするわ」 「なんでも?」 「そう――この躯を使ってなんでも」 胸を、そのやらしい牝の躰を見せつけるようなしなを作った。その言葉にオレの喉は大きく鳴った。そこではじめてオレは生唾を呑み込んだのを知った。喉がひりついてたまらない。 「あなたのコックをこの唇でサックするのも、わたしのおまんこを使ってファックするのも、もちろんわたしの胸も、おしりの穴も使っていいわよ」 「…………それだけ……かい……」 熱い。熱い。熱い。まるでこの女は熱病だった。この女の色香に冒されたかのよう。この淫靡な熱病は体ばかりか心まで蝕んでいく。 「……まさか。あなたの玉も舐めてあげる」 舌がまた唇を舐め上げる。それを想像させるかのように、蠱惑的にゆっくりと。艶めかしい蛇のような妖しさ。それがチロリチロリとオレの性感を舐め上げていく。 「あなたのおしりの穴を舐めてもいいわ」 この妖艶な女がおれの股間に顔をうずめていると思うだけでたまらなかった。牡を擽るような囁き。痴態といってもいい、濡れた言葉が心臓を鷲掴みにして離さない。ぬらぬらとした言葉がやらしくオレを責め立てていた。 「……縛るとかは?」 「当然いいわよ」 この女をひいひいいわせたい。この女の秋波が、このオンナの媚声が、この牝の妖艶な肉体が、オレを熱くさせていく。こんなにも熱くしてしまう。もしここに人目がなければ押し倒してしまう。いや人目があっても押し倒したい。 「……オレのスペルマを……その顔にかけたりしても」 「もちろん」 この美貌がオレの出した精汁で穢れるのが見たい。この女から言いだしたのだ。この女から誘ったのだ。強い牡ならなにをしてもいいと。奉仕してもいいと。 「それを……飲んでくれるか……」 「当然」 ワザと彼女はグラスに注がれた飲み物を持ち上げる。そしてそのテラテラと光る口唇をけつて、ゆっくりと見せつけるように飲みほす。喉を鳴らして飲みほす。ごくごくとワザとはしたなく、わざと猥褻に。 ああ――――この女の胎内までもオレの物で穢したい。オレの出した牡汁でいっぱいにしたい。 「――じゃあ……尿とかも」 「かけてあげてもいいし、飲んであげてもいいわよ」 とことん貶めたくて、オレの息子は熱く滾っていた。縛りあげ、あられもない痴態を曝したい。服従させきって、足の指も、オレのしりの穴も、その口唇でたっぷりと奉仕させてやる。 そして狂おしく泣き叫び、ただの牝になるまでひぃひぃ言わせてやる。いやだといっても泣いてもよがってもオレので貫いている。口もあそこもおしりにもたっぷり注いでやる。あふれかえり白濁した粘液でいっぱいにしてやる。そして小便を無理矢理飲ませてやる。 「――――あなたがほんとうに強い牡ならね」 女はオレの顔を覗き込む。むあっと香る匂い。媚びるような香水の匂いとともに漂うやらしい牝の臭いが鼻についた。ただ牡を興奮させるためだけのやらしく爛れきった牝の臭いに頭の芯までくらりと酔いそうだった。 その媚びた憂いを含んだ視線。組み伏して喘がせてやる。あられもなくこの世もなく、ただ狂わせてやる。 「それをどこで証明すればいい?」 淫魔の爛れた笑みを浮かべると、こちらについてきて、と女は店を出ていった。女の言葉にオレは従っていた。 |