ふたりの日々

                                        作:しにを





 朝の光。
 窓から射すその眩しさで目が醒めた。
 少し違和感。
 ここは何処だろうと、少し戸惑う。
 ほんの僅か、まばたきを二、三回する間。
 それで何も不思議の無い、見知った部屋だと認識する。
 違和感は、部屋ではなく他の要素から生じていた。

 腕に、肩に、腹に。
 そして腿に、足に。
 触れているもの。
 いつもは一人で眠っているから、感じた違和感。
 それに今の格好。
 裸のまま眠ったので何も身につけていない。
 常ならぬ姿でいて、だからこそ体と触れあっているやはり何も身に付けてい
ない素肌の感触が、強く感じられたのだろう。
 自分に触れている別の存在。

 あんなに愛し合って。
 一つになって。
 どろどろに溶けて。
 そのまま二人で眠ってしまって。

 それなのに目覚めるとまた、別々の存在に戻っている。
 それは―――、少し寂しい。 

 けれど―――、少し嬉しい。
 一人から二人になったのなら。
 またひとつに。
 何度でも繰り返せばいいから。

 身を起こして寝顔を見つめる。
 穏かな顔。
 幸せそうに見える。
 それが自分とこうしているからだと思うのは、不遜な思いだろうか。

 その寝顔。
 眼鏡を掛けていない顔。
 普段でも見ないではないけど、眼鏡を外している時はたいてい平穏さと縁遠
い状況にある。
 血生臭い戦い。
 学校での日常とは隔絶した異質。
 鉄と火と破壊。
 そんなものが密接に結びついている。
 だから寝顔とは言え、眼鏡のない素顔が安らかなのは、それだけで嬉しい。
 勝手な思い込みかもしれないけど、笑っていて欲しいから。
 哀しんだ顔は見たくないから。
 平穏なる日常の象徴たる眼鏡が無くてもなお微笑んでいられたら。

 それにしても、昨夜はあんな事までしたのに。
 それなのにこんなに屈託の無い顔。
 相反する思いだけど、それそれで少しだけ不満。

 意地悪で。
 人の恥ずかしい事を、嫌がる事を、逃さず見つけて。
 そして……。

 命令なら従う。
 お願いされたなら、大抵の事は喜んでする。
 だけど言葉は無い。
 意思を言葉で伝えられずに、ほのめかしだけ。
 しなければいけないように仕向けて。
 それでいて、こちらが泣きそうになっているのを嘲笑う。
 酷い言葉で、非難して、いやらしいと責める。

 けど、止めるわけにはいかない、止められない。
 喜んでいるのがわかるから。
 行為を。
 責めるのを。
 泣くのを見るのを。
 
 それに、その後で可愛がってくれるから。
 よくできましたと言って誉めてくれるから。
 それが、とても嬉しいから。
 とてもとても幸せだから。

「ほら、こんなに濡らして」
 
 昨夜の声が、した事が甦る。
 言葉でわかりきった事を指摘する。
 くすくす笑いながら、脚を広げさせる。
 あからさまにされる股間。
 恥ずかしがって。
 泣きそうになって。
 嫌がって。
 それでも感じてしまっているのを示している。
 それとも、こんな事をされたから……。

「うん……」

 綺麗な人形のように動かなかった唇が、少し形を崩した。
 起きる気配。

 少し悪戯心が起きる。
 顔を近づけ、そして唇を触れさせた。
 息をしようとして唇を吸われる。

「ん、んん……」

 少し息苦しいのだろうか。
 鼻がぴくんと動く。
 
「え、んん?」

 眼が開く。
 でも、すぐには何かわからない様子。
 少し笑みを誘われ、それでもキスを続ける。
 今度はこちらからもっと強くする。
 唇を左右に擦らせ、そして……。

 え?
 あ、う……。
 反撃された。

 舌が下から忍び込み、こちらの舌を絡め取る。
 触れるだけだった唇が、攻撃するように押し付けられ、上唇を、下唇を、舌
を挟んで吸う。
 
 ちゅう……、んん…ちぅぅ………じゅぷ……。

 舌が触れる。
 なんて気持ちいい。
 夢中になって震え、応え、味わう。
 ただ、口で奏でる音が部屋に響く。

「ふぁ……、遠野くん」
「ん、シエル……」

 どちらともなく唇を離して見つめ合う。
 あ、失敗だったかもしれない、キスしてしまったのは。
 目覚めのキスと言うには強すぎて。
 その目。
 おはようの挨拶もなく、こんな爽やかな朝には相応しくない色を湛えて、そ
して……。

「喉が……」

 ぽつりといわれた。
 その後に続く声は無い。
 まただ。
 命令でも懇願でもなく。
 それでいて、こちらを従わせる言葉。
 でも、それをするのは抵抗がある。
 されるのではなく、するからだろうか。

 無言のまま。
 でも、待っている。
 早くとせがんでいる。

 溜息が自然と口から漏れた。
 それで、こちらが従うのがわかったのだろう。
 口を開けられた。待っている。
 その僅かな動作に釣り込まれたように、膝立てで歩いて近寄った。

「もう少し、顔を下に……」

 指示しつつ、自分でも動く。
 唇が触れた。
 さっきまで貪りあった、まだ感触が残っている唇。
 それが、今、性器に触れている。

 じっとしてはいなかった。
 舌が入り口を探っている。
 強くは無いけれど、熟知している動き。
 快感と共にむずむずする感覚を呼び起こす。
 刺激としてはそうは大きくないのに、腰全体が反応して動いてしまう。

 ッああ。
 急な、別種の刺激。
 快美とも、痛みとも、くすぐったさとも、それとも別の感覚とも全て似て非
なる。
 あるいは全部集まったような何か。
 思わず声が洩れる。

 その異種の感覚の正体。
 吸っている。
 小さな穴を、強く。
 中から吸い出そうと強く。
 尿道口から、中に至るまでを刺激している、吸い出される感覚。
 
 ちょろろ……。

「んん、くくぅん……」

 喉を鳴らす音。
 下腹部が痺れるような快感。
 寝起きで、おしっこがしたくなって……。
 それを、排尿をしている、単純な排泄感覚からなる気持ちよさ。
 本能的な快感。

 でも、飲まれている。
 そんな排泄物を他の人間に飲まれている。
 誰よりも好きな人に、直接尿道口に唇をつけられ、迸る尿液を飲まれている。
 おぞましい。
 怖気を振るう程の嫌悪感と禁忌に触れる怖れを身に起こさせる。
 
 不快感。
 気持ち悪さ。
 拒否したい感情。
 でも、そのまま排尿は続く。
 唇で塞がれたまま、尿を迸らせている。

 その中に確かに忍んでいるものを感じた。
 相反する感情。
 間違いない……喜びを。







 いつからだろう、こういう関係になったのは。
 劇的に変わった訳でないから、はっきりとは憶えていない。
 それだけ自然だったのだろう。

 学校では先輩と後輩。
 外ではもっと親密な恋人同士。
 最初は周りからいろいろと横槍はあったけど、結局は認められた関係。
 別に周囲が何を言おうと思おうと構わなかったけれど。
 どんなものであれ、もう二人を別つ事など出来なかったのだから。

 恋人としての、愛し合う行為、それを何度となく繰り返した。
 どれだけしても足りなくて。
 すればするほど新たな喜びが湧いて来たから。
 互いの体を隅々まで確認しあい、ある意味自分自身よりも詳しく知り。
 抱き合い、舌と指とを隈なく這わせ。
 最後には結ばれて喜びに果てる。
 倒れるまで行為に耽った事もある。
 どちらも止めようと言い出せないままに、アブノーマルな行為にのめり込ん
だ事もある。
 醒めてから、何でこんな事をと呆然とする行為まで。

 それが純然たる愛情行為と言うより、快楽を追い求めた側面があった事は否
定しない。
 けれど、同時に単に快楽だけではなかった。
 獣みたいに体を求め合った時も。
 誰でもいい訳ではなくて、ただ一人の相手だからこそ、そんな真似が出来た
のだから。
 それに性行為以外での繋がりの深さ。
 ただ指先を触れ合うだけ、手を握るだけでも互いを強く感じる事が出来た。
 どれだけ汗まみれになって性交を繰り返すよりも、幸せになれる事も。

 でも同時に、どれだけ貪っても足りず、もっともっとと欲望に全身を委ねて
ただひたすらに体を重ねるだけの行為も、幸せの一つの形だった。
 好きな人の姿を見たい。
 顔を、首筋を、胸を、お臍を、背中を、腕を、お腹を、腕を、脚を、性器を。
 見て、触れて、舐めて。
 何もかもを知りたい。
 そして同じ事をして欲しい。
 決しておかしくはない。
 自然な事だと思う。

 そうした行為のバリエーションの中で、歯車が噛み合うような、関係を見つ
けてしまった。
 どう言ったら正しいだろう。

 ご主人様と飼い犬の関係。

 はなはだしく間違った、そして誤解を招く言葉ではうると思うる
 でも間違っているが故に、ある意味正しい表現だと思う。
 従い命令を受ける快感。
 従わせる事による快感。
 自分を誰かに委ねる喜び、言われた事に従う喜び。
 愛情も忠誠も自由も委ねられる喜び、従わせる喜び。

 時にSMじみた行為に至る事もあるけど、それを求めると言うより、緩やか
な従属関係を求めている。
 ペットになって主人に甘え、主人となって犬や猫に愛情を注ぐ。
 それがいちばん近いと思う。
 
 その逆を試してみて、お互いに喜びを得たり事もあったけど、まるでレベル
が違っていた。
 それは言わばプレイとしての面白さや目新しさ。

 初めて今の関係を発見した時の衝撃、ゾクゾク感。
 それに比べたら子供だましだった。
 強めの声を掛けられ、黙って言われるままに痴態を晒して。
 どうしたのだろうと思うほどに酷い事を言われて。
 でも、それに反発どころか、ひたすらに許しを乞うて。
 それどころか罰をお仕置きを懇願して。
 その上での、交わり。
 絶頂。
 二人で戸惑うほどのめり込んで、終わってからどうしてしまったのだろうと
呆然として。
 怖くなってしばらくぎこちなく互いに距離を置いたほどだった。

 でも、あの悦びがら忘れられずに、もう一度一夜を過ごして。
 これも二人のあるべき姿のひとつだと思い知らされた。
 自らの中にあるものに微かな恐怖と、それを圧倒する喜びを感じながら、何
度となく行為に耽った。

 もっとも、それからも日常は変わらない。
 先輩と後輩。
 男と女。
 そんな当然の差異はあるけれど、お互いを大事に思って。
 相手の些細な心の表れに、驚くほど喜びを感じ、自分がした事で相手が喜ん
でくれた事に幸せを覚え。
 時に喧嘩したりもする。
 けれど、どちらともなく元に戻るのが大半。
 そうでなくても、「ごめんなさい、遠野くん」か「先輩、俺が悪かった」で
こじれる事無く仲直り。
 むしろ、謝られている方が不安そうな顔をしていて、心からほっとした顔を
したり。

 お昼休みを一緒に過ごす。
 放課後待ち合わせをして一緒に帰宅する。
 休みの日にデートする。
 どちらかの家で何もせず、ただ穏かにお互いを意識しながら、のんびりと何
と言う事も無い言葉を交わす。
 それだけでも幸せ。
 そんな二人の関係は変わらなかった。

 ただ、二人きりの時に、交歓の時に、新たな選択肢が加わっただけ。
 より多く選ばれる選択肢が。 
 
 もしも、二人が別な相手と巡り会っていたら、そんな資質は芽吹く事無く終
わっていたかもしれない。
 逆の立場だって決して悪くはなかったのだし。
 嗜虐の悦びが被虐の悦びに。
 責められる喜びが、責める喜びに。
 誰もが心に双方を秘めているのだとすれば、決しておかしくは無い。
 
 だから、時には行為がディープな方向へ向かう。
 穏かに抱き合っているだけでは物足りなくて。
 二人の波長がそれを求めて。

 例えば……。
 普段は秘められた部分。
 二人の時にだけ曝け出してしまう処。
 その、快楽の器官。
 一番敏感なところを覆っていた包皮はもうない。
 切り取られてしまっていた。
 どうやったのかわからないほど鮮やかに。
 
 どうしてそんな話になったのだったか。
 誘うように問われて、拒否せずに頷いたのは憶えている。
 必要以上に性器を前に突き出して。
 冷たい刃物が近づくのに甘い恐怖。
 そして、それだけで絶頂しそうな快感。

 その割礼によって、持ち物にして貰ったような幸福感に包まれた。
 印であり、刻印であり、名を刻む行為であり。

 だけど、それからしばらくは普通の生活もままならなかった。
 いつも剥き出しで、下着に擦れるだけで、びくんと体が震えて。
 肉体的な快感。
 そしてその度に思い出させられる幸福感。
 いつもいつも何処にあっても興奮状態を体は示していた。

 そんな様を面白そうに見つめられた。
 いきなり服の上から触られたり。
 脱ぐように命じられ、何もしていないのに硬くしているのを少し意地悪く揶
揄され。
 少し慣れてしまったのを眺めて、傷つかぬ程度に薄く皮を削ごうか等と訊ね
られたり。
 首を縦にすれば、されるのだろう。
 また、あの根源的な恐怖を感じ、そして過敏に反応する体を取り戻せる。
 それは誘惑。
 
 他には、ある意味子供の遊びのようなたわいの無いものが多いけど。
 するの裸の男女であれば、おのずと淫靡な香りが漂うものとか。
 例えば、外での散歩とか。
 首輪と鎖をつけられての、まさにご主人様と飼い犬の行為。
 深夜、誰もいないのを確認して、それでも何か音がすれば誰かの足音かとび
くりとして……。
 明け方、公園まで出掛けてから全てを脱ぎ捨てる事もある。
 それから、昼日中、結界で人の意識から遮断して。
 全裸にさせられる。
 お尻に尻尾をつけられて。
 四つん這いで歩く。
 きつくないように緩めにした首輪がチャラチャラと音を立て。
 手から垂れた鎖で首を繋いで貰って。
 逸脱を感じさせる悦び。
 それから……。

「んん……ッ」

 最後に強く吸われ、唇が離れた。
 垂れた尿液を舌で拭われる。
 美味しかったと微笑まれる。
 それを見ると胸の鼓動が早くなる。
 まだこれには全然慣れない。
 慣れる筈がない、こんな真似に。

 でも、放尿行為を何度となく繰り返している。
 最近は、こうやって何らかの形で放尿が折り込まれる事が多い。
 それがお気に入りらしい。
 ベッドで、外で、お風呂やトイレで。
 いろんな事をさせられた。
 あくまで自分の意志での露出行為・変態行為として。
 始めは、見せてとせがまれて、拒みつつも結局従ったあの時だったろうか。
 単に異性の排尿行為に興味を持っただけみたいだったけど、妙な興奮を生み
出したらしい。
 嫌がってしている姿も恥ずかしげにしていたのも琴線に触れたと言っていた。

 それから何度も視線を感じながら、放尿行為をした。
 すぐにそれは、何処でどうやってするというバリエーションを生み出し、そ
れでも飽き足らず、「尿をする」ではなくて「尿でする」行為へと変わった。

 床や地面に撒き散らすのではなく、体へ迸らせる行為。
 立ったままさせられて、それを手で弄られたり、そのまま歩いて体に浴びせ
させたり。
 性行為のさなかに、放尿する事を求められたり。
 嫌だと言えば無理にさせようとはしない。
 でも、あんな目をして繰り返されるお願いを拒む事は難しかった。
 抵抗の少ないものをさせて慣らしたら、やがてもっと心理的抵抗の大きいも
のに。
 そうして障壁をどんどん崩されて。
 今では望まれれば自らいそいそと飲尿の手助けをするようにまで……。

 逆ならいいのにと思う事がある。
 それだって嫌だけれども今よりも抵抗無い気がする。
 尿まみれにさせられたり、ぽとぽとと終わりを垂らしているのを舌で綺麗に
する方がずっとマシ。
 飲むのは嫌だけど、でも、多分出来ると思う。
 でも、そうはさせてくれない。
 こちらからするだけ。

 どうしてかと訊いてみたら、優しい笑顔で答えが返った。
 自分の愛する人を排泄物で汚すような真似が出来る訳がないと。
 そんな酷い事はしたくないって。 
 その言葉は嬉しかったけど、すぐに愕然とした。
 ならば、こちらはどうなのだろう。
 その愛する人に対して、本人に言われたからではあっても、何度も尿を浴び
せている。
 酷い真似。
 そう認識している行為。
 少なくとも愛する人がが自分に対しては決してしない行為を、こちらからは
愛する人へ行っている。
 この寒気すらする構図。
 それを聞いてから拒否し様としたが、よりいっそうの熱意を示されるように
なっただけだった。
 残念そうに仕方ないねと言いつつも、視線で従わせようとする。
 そして、それに屈すると、前には見せなかった冷笑をちらりと見せる。
 罪を犯させる事を楽しまれている。
 望む事をする行為が、大切な人を汚す、そのジレンマ。
 そしてそれに葛藤する様子。
 やはりこれも手の込んだ苛め方なのだ。
 何て酷い。
  
 でも、確かに喜んでも入るのだ。
 愛する人の排泄物に汚される事に。
 それが感じられるからこそ、自らの手を汚す真似を行うのだ。それは確か。
 喜んでくれるのなら、何でも出来るのだから。
 それは一方的に苛め、可愛がり、撓め、弄ぶ、そんな関係では無い事の証で
あるかもしれない。

「あ……」

 喉を鳴らし、手で口を拭って。
 そして満足したのだろう。
 唇が近づく。
 こちらからも近づける。
 悪戯っぽい目。
 何かを問うような。
 こんな尿を受けた唇に触れられるのと訊ねている。

 もちろん平気。
 こちらからの返答として、そのまま唇を合わせた。
 少し残っているのかもしれない。
 でも、それは飲んでくれたものの残りだ。
 こちらが拒めよう筈も無いし、拒もうとも思わない。
 
 ねっとりと舌が絡み合う。
 唾液が混ざり合い、舌が行き来する事で、互いの口に分たれた。
 キスを続けながら、飲み込む。
 何ら違和感も、嫌悪感も無い。
 ただ、唇を味わい、舌に翻弄される。

 いつしか、キスだけだった接触が、体全体の接触に変わっていた。
 腕が背に回される。
 背中や脇、さらに下まで、ゆるゆると手が探る。
 どちらともなく着ている物を脱ぎ捨て、同時に相手の肌に触れる事を妨げる
ものを剥ぎ取っていく。

 密着して押し潰された乳房。
 その先端が固くなってきたのがわかる。
 同時に下腹の辺りにも、むくりと頭をもたげたものが。

「エッチですね、遠野くん」
「シエル先輩こそ。嫌がるどころか……」

 手のまさぐる動きが俄然熱意を帯びたものに変わる。
 二人とも息が乱れ始める。
 腿の内側、腋の下、首筋。耳たぶ。
 微妙な急所をてんでばらばらに攻め合う。
 舌と唇とで。
 指と掌とで。

「先輩……」
「うん、そこ…、あ、気持ちいいです、遠野くん」
「先輩の手、柔らかい。あ、くすぐったさが…んんッッ」
「はぁ、遠野くん、来て―――」

 明確な意志を持って体が動く。
 愛撫から、二人をひとつとする結合へと。
 何度となく昨夜も行った交わり。

 しかし、初めてのような熱意で互いを求め合う。
 その輝く瞳。
 紅潮した頬。
 汗ばんだ体。
 
 体が重なる。
 少し位置を探ったペニスが、貫かれるのを求める熱く濡れた谷間に向かう。
 迷う事無く腰が沈む。

「ああ、遠野くん」
「先輩、シエル先輩」

 熱い息と共に、愛する人の名前を呼ぶ。
 こんなに近くにいるのに、もっともっと近しくありたいと願うように。
 

 




「見せて」

 むしろ優しいと言って良い声。
 そこに潜む命じる色がなくとも、従いたくなる声。
 でも、はっきりと見える。
 逆らう事を許さない鉄の声。
 従う事に喜びを与えてくれる言葉。

 とろとろに蕩けあった後、放心してふらつく足取りで二人で浴室に向かった。
 いつもならそれで切換えられるのに、今は違っていた。
 体を洗いながらも、互いの体に熱っぽい視線を送る。
 相手の背中を洗うだけの行為がともすれば違う色彩を交えてしまう。
 そうした空気の中での、声だった。

 陶酔の中で従う。
 体を動かす。
 見つめる目を意識し、自分の何もかもを曝け出す。
 他の人には見せることの無い自分を隠さず見せる。
 
 ああ。
 これだけで性器が反応する。
 ぴくんと動く。
 浅ましさを笑われている。
 でも、目を逸らさせようとはしない。
 そのまま、見せつける。

「いきます」
「……」

 ちょろ…じょぽぽぽぽぽほ……。

 最初は幾つもの滴だったものが、集まり一条の線を描く。
 弧のライン。
 色づき白い床を、黄色く染めていく。 
 こんな排泄の姿。
 
 でも、それを喜んでいる。
 さっきは口と喉に受け。
 今度は目と耳とで味わう事を喜んでいる。
 嬉しい。
 こんな事で喜ばれ、うっとりとされる。なんて嬉しい事だろう。
 喜んでもらえるのなら、何でもできる。
 もっと恥ずかしい真似でも。
 もっと惨めな真似でも。

「よく出来ましたね、遠野くん」
「はい、シエル先輩」

 尿を終え、先端からぽたぽたと垂らしているペニスを、愛しそうにシエル先
輩が触れている。
 みるみるそこに血が集まっていく。
 次は何をしようか、させようか。
 くびれを弄び、迸りの穴を爪で開くように突付きながら、シエル先輩は考え
ている。

 ああ、早く。
 俺を可愛がってください、命じてください、責めてください。
 誰よりも愛している、俺の優しいご主人様。
 シエル先輩……。

 
  Fin










―――あとがき

 と言う事で、シエル先輩でのにょーSSでした。
 某所で言ったように「シエルとのらぶえろでにょーで、シエルが苛められな
いお話」になっていますよね?
 出しているの志貴じゃないか、とかそんな事は当方は関与しません。
 
 何だかにょーものとしても、えろとしても薄くて溜息ですが、こういうの変
なのを書くのは楽しかったです。
 ありがちなオチですけどね。
 とりあえずお読み頂きありがとうございました。

 次は間に合えば秋葉で……。

  by しにを(2003/8/25)